私が広告運用という仕事に携わることになった2017年頃は、まだ「目標コンバージョン単価」「コンバージョン数の最大化」のようにキャンペーンや広告グループ単位で設定した予算・目標に対し機械学習を利用した入札単価調整が行われる入札戦略は主流ではなく、「拡張クリック単価※」「個別のクリック単価」のようにキーワードごとの入札単価調整を行う方法が主流でした。
長く広告運用の業務に関わった方と話をすると、「キーワードごとの入札」は非常に重要であったという話題がたびたび出ます。私自身もそのように感じています。
結論から言えば、キーワードごとの入札で本当に重要だったのは、入札単価を細かく調整する技術そのものではなく、検索語句の裏側にあるユーザーの意図を読み取り、仮説を持ってアクションする機会だったのではないかと考えています。
※Google広告では、検索キャンペーンとディスプレイキャンペーンにおける拡張クリック単価は利用できなくなっています。
どのように入札を行っていたのか
「目標コンバージョン単価」「コンバージョン数の最大化」のような入札戦略が主流となる前は、「キーワードごとの入札」を行っていました。
「なぜキーワードごとの入札を行っていたのか」をシンプルに言うと、今と比べ物にならないほど機械学習の精度が低かったことが要因だと思います。「目標コンバージョン単価」や「コンバージョン数の最大化」を利用しても、今ほどの効果を上げられませんでした。現在でもコンバージョン数が少なければ「オークションごとの自動入札機能」は機能しづらいのですが、以前はより顕著でした。
そのため「キーワードごとの入札」を行っていました。
あくまでもサンプルですが「自動の資産運用アプリ」を例に挙げてみます。

このようにキーワード単位で入札単価を調整していました。さらに言えば、当時は、1キーワード1広告グループのように、現在よりも非常に細かく管理することも珍しくありませんでした。
どのような点が重要だったのか
「キーワードごとの入札」はどのような点が重要だったのでしょうか。細かく管理することは大変でしたが、それだけの意味があったように思います。
キーワードごとに入札単価調整を行うには、意識的にせよ、無意識にせよ、以下のような点を考慮していたのではないでしょうか。
① 該当キーワードの推定CVR
現在は機械学習により、オークションごとにコンバージョンの可能性やコンバージョン値を推定し、入札単価が調整されています。オークションごとに推定するのは不可能ですが、以前はCVRを考慮してキーワードごとに抑揚をつけていたはずです。

「資産運用 おまかせ アプリ」と検索している人は、すでに“自分で投資先を選ぶ”よりも“任せたい”というニーズを持っている可能性があります。一方で、「老後資金 不安」と検索している人は、課題意識はあるものの、まだ資産運用アプリという解決策にたどり着いていないかもしれません。
この違いを読み取り、前者には高めの入札、後者には低めの入札、あるいは別の訴求やLPを検討する。そうした判断が、キーワードごとの入札には含まれていました。
②そのキーワードにどれだけ伸びしろがあるか
CVRが高いキーワードでも、検索ボリュームが小さければ事業インパクトは限られます。逆に、検索ボリュームが大きいキーワードは、少しの入札変更でもCV数に大きく影響します。だから、キーワードごとの入札では「効率」と「伸びしろ」の両方を見ていたはずです。
これらの内容を踏まえると、キーワードごとに入札単価調整を行うことは「商品・サービスを理解すること」に寄与しているように思います。
検索広告で効果を上げるために「入札」というのは非常に重要なスキルでした。そのため、検索広告に真剣に取り組む場合、上記のような点を踏まえて調整を行っていたのではないでしょうか。
それはキーワードごとの結果を単なる数値として捉えるだけではなく、「商品・サービスを求めているユーザーはどのような人が多いのか理解すること」に必然的につながっているように思います。
このようにユーザー理解につながるからこそ「キーワードごとの入札」という行為は重要であったと私は感じます。
キーワードのターゲティングからシグナル化の流れ
少し話は変わりますが、キーワードごとの入札がしづらくなっている要因としては、キーワードの役割が変化したことも1つの要因であると考えています。
現在はインテントマッチを前提に設計する場面も増えており、以前と比較するとキーワードの機能は「ターゲティング」と言うよりは、広告グループのテーマや方針を示す「シグナル」のような役割であるように感じます。

あくまでもイメージではありますが、ターゲティングが明確な道のりを示す条件であったのに対し、シグナルは方向性を判断するための手がかりです。ユーザーの検索意図を読み取れるようになり、以前よりも自由度が上がっています。インテントマッチのイメージはP-MAXの「検索テーマ」と近い印象です。
またインテントマッチに限らず、完全一致やフレーズ一致についても、異なる文字列の検索語句に対して広告が表示されることが増えてきました。そのため以前に比べるとユーザーがどういった語句で検索するのか読みにくくなっています。
ユーザー理解のために今後できること
今の環境では、入札を通してユーザーを理解することは難しくなってしまったかもしれません。しかし、検索語句の結果を見ることは今も同じように取り組むべきです。
キーワード単位で直接入札単価を調整する機会は減ったとしても、検索語句の結果を通して「商品・サービスを求めているユーザーはどのような人が多いのか理解すること」はできます。だからこそ検索語句を通してユーザーを知ることに取り組むべきではないでしょうか。
ただし、検索語句レポートで確認できる検索語句は、以前よりも制限されています。アカウントや期間によっては、実際の検索の一部しか確認できないこともあります。以前は「入札」を通して、その結果を体感することができましたが、オークションごとの入札によりアクションでは体感しづらくなっています。
それならば、検索語句を通して得たインサイトは広告文やランディングページなど別のアクションへ活かすことが必要なのではないでしょうか。
先ほどの投資サービスを例にいくつかのアクションを取り上げてみます。
「投資 初心者 始め方」「少額投資 おすすめ」のように、投資を始めていきたい人が関心をもってくれているとすると…
① 広告文
・投資初心者でも始めやすい、おまかせ投資
→シンプルに初心者の方でも始めやすいことを押していく
・1万円からでも始められる資産運用
→少額からでも始められることをメッセージとして伝える
・投資を始めるのに10万円もいりません
→高額で始めなければならない誤解をなくす表現をメッセージとする
② ランディングページ
・少額から始められることを具体的に示す
→「投資にはまとまった資金が必要」という不安を下げるため、最低金額や積立金額を分かりやすく見せる
・運用は「おまかせ」だから続けやすい
→投資初心者が感じやすい「何を買えばよいか分からない」という不安に対し、おまかせ投資の価値を伝える
・始め方をステップ形式で見せる
→「投資 初心者 始め方」という検索意図に対し、申し込みから運用開始までの流れを簡潔に示す
このように入札とは違ったかたちでアクションにつなげられるのではないでしょうか。
まとめ
「キーワードごとの入札」で本当に大事だったのは、単価を上げ下げする操作そのものではなく、検索語句の裏側にあるユーザーの意図を読み取り、その意図に対して仮説を持って向き合うことだったのではないでしょうか。
それは「入札」という形式ではなくなってしまったかもしれませんが、広告文やランディングページなど、他の分野に活かしていくことはできます。
今では、そうして検索語句の裏側にあるユーザーの意図を読み取り、仮説を持ってアクションする機会をつくっていく必要があるかもしれません。







