AIは間違えたのではなく、データの文脈を知らなかった――信頼できる分析のために
2026年06月26日
ライター:田中 真祐
  1. AI時代に見えてきた新しい課題
  2. 「Can I trust this thing?」から始まったセッション
  3. AIは間違えたのではなく、文脈を知らなかった
  4. Source of Truth(信頼できる基準)がなければAIは育てられない
  5. AI時代だからこそ人間は「考えること」にシフトする
  6. おわりに

AI時代に見えてきた新しい課題

2026年のTableau Conferenceに参加して感じたのは、AIが「新機能」ではなく「前提」になりつつあることでした。

Agent、Tableau Next、MCP(Model Context Protocol)などのキーワードは多くのセッションで登場し、AIをどう業務に取り込むかが主要なテーマの一つになっていました。

去年のTableau Conferenceでは「AIを使っていこう!」という印象がありましたが、今年のTableau Conference ではAIを活用するのは前提として、「AIをどう活用していくか」という内容に移っているように感じます。

実際、私が参加したセッションでも、AIによるデータ探索や、Slackなどのコミュニケーションツールから分析結果を取得する仕組み、AIがより正確な回答を返すためのデータ基盤づくりなど、AIを実務へ組み込むことを前提とした内容が数多く取り上げられていました。

そんな中で興味深かったのは、AIそのものの性能を語るセッションよりも、「どうすればAIを信頼できるのか」をテーマにしたセッションです。

AIが回答した数字は本当に正しいのか。その答えはどのデータを根拠にしているのか。自社特有のルールや定義を理解した上で回答しているのか。

AI活用が現実味を帯びてきた今だからこそ、多くの企業が直面しがちな課題だと思います。

今回は、私がTableau Conferenceで特に印象的だった「Can I Trust You? Building Confidence in Agentic Analytics(信頼してもいいですか? ― Agentic Analyticsへの信頼を築く)」というセッションを取り上げながら、「どうすればAIを信頼できるのか」について考えてみたいと思います。

「Can I trust this thing?」から始まったセッション

↑発表者のSalome氏。分析エージェントの構築担当。

↑AI導入推進派のマネージャーのHenry氏。

↑営業担当のMarcus氏。

セッションは、発表者が分析エージェントを構築した際の実体験をもとに進んでいきます。

登場するのは、AI導入に前向きなマネージャーと、少し懐疑的な営業担当です。

マネージャーはTableau ConferenceでAgentic AnalyticsやTableau Nextの話を聞き、「ぜひ試してみよう」と提案します。一方の営業担当は、新しい技術に対して慎重なタイプ。発表者はそんな営業担当をテストユーザーに選び、分析エージェントを使ってもらうことにしました。

営業担当には普段から利用しているダッシュボードがありました。売上や稼働状況を確認するための重要なダッシュボードであり、彼にとっての「正解」が示されている場所です。

ところが数日後、営業担当から連絡が入ります。

「エージェントが壊れている気がする」

詳しく話を聞いてみると、ダッシュボードとエージェントで同じ指標を確認したにもかかわらず、表示された数値が一致していませんでした。

そして営業担当は、分析エージェントの構築の発表者にこう問いかけます。

Can I trust this thing?(このAI信頼していいの?)

AIを業務で活用しようとするとき、多くの人が一度は感じる疑問ではないでしょうか。

どれだけ自然な文章で回答してくれても、どれだけ便利に見えても、結果が正しいと信じられなければ業務で使うことはできません。

そしてこのセッションは、「AIがなぜ間違えたのか」ではなく、「どうすれば信頼を取り戻せるのか」という方向へ進んでいきます。

AIは間違えたのではなく、文脈を知らなかった

営業担当が違和感を覚えた理由は、エージェントとダッシュボードで同じ指標に対する数値が異なっていたからです。

一見すると、「AIが間違った」と考えてしまいそうですが、発表者が調査した結果、原因はもう少し複雑なものでした。

エージェントは「Billable Days(請求可能日数)」を計算する際に、請求対象となる日付の件数を数えていました。一方、会社では「Billable Days」を「稼働時間 ÷ 8時間」で計算するというルールを採用していました。

つまり、AIは勝手に誤った数字を作り出したわけではありません。AIなりにデータを解釈して回答していたものの、会社独自の定義やルールを理解していなかったのです。

この話を聞くと、私が過去に担当したレポート作成の案件で、「予算」という言葉を「目標値」という文脈で使っているお客様がいて、定義を伺うまでは違う文脈で理解していたことを思い出します。

人間同士であれば、「このレポートのCV数は○○を含む」「この売上はキャンセル分を除外している」といった背景知識を共有できます。しかしAIは、そのような背景を自動的に理解してくれるわけではありません。

↑AIはチューニングできると解説するSalome氏

セッションの中でも、発表者はAIが誤った回答を返す理由として、定義の不一致やセマンティックな解釈のずれを挙げていました。

だからこそ重要になるのが、AIに対して「この会社ではどう定義しているのか」「この指標はどのように計算されるのか」といった文脈を明示的に伝えることです。

このセッションで紹介されていたSemantic ModelやBusiness Preferenceも、まさにそのための仕組みでした。AIを賢くするためではなく、AIが組織のルールや文脈を正しく理解できるようにするための仕組みと言えるでしょう。

私はこのセッションから、AI活用の課題はモデルの性能だけではなく、「どれだけ正しい文脈を渡せるか」も重要だと感じました。

Source of Truth(信頼できる基準)がなければAIは育てられない

↑AI分析を信頼できる状態にするためのチェックリストを紹介するSalome氏

分析エージェントを構築した発表者がまず確認したのは、営業担当が普段利用しているダッシュボードでした。

発表者はこれを「Source of Truth」と呼んでいました。

AIを調整する前に、まず何が正しい答えなのかを確認する。どの指標を基準にするのかを明確にする。その上で、AIがなぜ異なる回答を返したのかを分析していきます。

私はこの話を聞いて、AIの話のようでそれ以前の話だと思いました。

実際、同じ「売上」や「コンバージョン数」という言葉でも、レポートによって集計方法が異なることがあります。担当者ごとに見ている数字が違えば、人間同士でも認識のズレが発生します。

その状態でAIを導入しても、AIは何を正解とすればよいのかわかりません。

AIが信頼できる答えを返すためには、まず人間側が「信頼できる基準」を持っている必要があります。

このセッションの中では、「Anchor to your source of truth(信頼できる基準に立ち返る)」という言葉が何度も強調されていました。

AI時代だからこそ、データの定義や指標の管理が重要になる。これは新しい技術の話というより、データ活用の原点に立ち返るメッセージだと感じます。

AI時代だからこそ人間は「考えること」にシフトする

さらにこのセッションで私が印象に残ったのは、「Behind every good agent is a great human.(優れたエージェントの裏には、優れた人間がいる)」という言葉でセッションを締めくくっていた部分です。

AIの進化によって、人間の仕事がなくなるのではないかという議論を耳にすることがあります。しかし、毎回思うことは、人間の役割はなくなるのではなく変化していくのだということです。

今回の例では、これまで分析担当者に依頼していた内容をエージェントが数秒で回答していました。そういう点では、AIは確実に人間の作業工数を減らしてくれます。

一方で、エージェントが正しい回答を返せるようになるまでに、発表者は多くの確認時間を費やしていました。

Source of Truthを確認し、指標の定義を整理し、Semantic Modelを整備し、Business Preferenceを設定する。AIは勝手に賢くなったわけではなく、人間が組織のルールや考え方を教えていたのです。

私はこのセッションを通して、これから人間に求められるのは「答えを出すこと」よりも、「何を正解とするのかを考えること」なのではないかと感じました。

どのデータを信頼するのか。どの定義を採用するのか。どのような文脈で判断するのか。

AIは分析や集計を代りに行ってその分の作業時間は減るかもしれません。しかし、その前提となる考え方やルールを決める役割は、これまで以上に重要になっていくと感じます。

おわりに

今回のセッションでは、AIの性能そのものではなく「どうすればデータを信頼できるのか」という視点と「賢いAIを使うことではなく、信頼できるAIを育てる」というメッセージを受け取りました。

AIは大量の情報を処理し、分析や集計をサポートしてくれます。しかし、何を正解とするのか、どの数字を信頼するのかまでは決めてくれません。

AIが普及するほど、その前提となる定義やルールを整理する人間の役割の重要が増えていくように感じます。

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この記事を書いた人
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田中 真祐
デジタルマーケティングエンジニア / DATA Saber
データビジュアライズの高度な技術的スキルで、お客様のデータドリブンマーケティングを支援する、DATA Saberを保有(二つ名:The Data Weaver)。ウェブ広告代理店での広告運用や、BIツールでのダッシュボード作成の経験を活かし、弊社ではGoogle タグマネージャ 360の設定・サポートや、QuickDMP、PDCAを実現するデータ可視化支援を担当。ちいかわに囲まれたデスクで日々癒されている。
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