絞り込むのではなく積み上げる~顧客創造型広告テストの考え方とNotionでの蓄積・共有方法
2022年04月12日
ライター:寳 洋平

広告運用のなかで、テストを行っていますか。

ずいぶん前にABテストをしたことはあるけれど、そのとき検証して残った広告が今走っていて、テスト自体はいつの間にか自然消滅してしまった…。そんな経験がありませんか。

テストに対して、実際大した違いも出ないし、何かが大きく変わるわけでもないし…実は筆者自身もそう感じていた時期がありました。

けれども、テストはやり方次第で大きな力になります。長く広告運用の現場に携わってきた筆者の実感では、広告運用のなかで身につけたなかで最も有益なものの1つに上がります。

この記事では、広告のテストを行う理由から、広告フォーマットの向き不向き、Notionを使った継続テストの管理方法のヒントまで、筆者の経験から得られた学びを共有します。

このコラムは、シリーズとして作られています。単体でも読めますが、つなげてお読みいただけると理解が深まります。よろしければ、他の記事も併せてお読みください。

よくあるテストの課題

広告媒体やテストツールを問わず、現場で陥りがちな課題があります。
ここでは、何十回と直面した課題を3つ挙げます。

  1. いい切り口が思い浮かばない
  2. テストが続かない
  3. 結果の共有ができていない

1.いい切り口が思い浮かばない

テストの切り口が思い浮かばない、という広告運用の担当者がいます。
これに対してははっきりした答えがあります。テストは切り口を出すところから結果を活かすまで、ずっと「チームプレイ」です。一人でやらず、立場の異なる複数人でアイデアを集め、広げていくのです。

複数人で考えるプロセスで、普段広告を考えたこともない方から出た切り口に活路が見えることを何度も見ています。才能やセンスなども否定しませんが、広告の切り口は複数人で広げるほうが強いです。複数人で広告のアイデアを広げるやり方については、別のコラムで詳しく記します。

2.テストが続かない

テストが続かない、という担当者も多いです。
ですが、一度であきらめてしまうのはもったいないです。テストは継続することで成果につながります。テスト結果を見て考え、新たにできた仮説を次に活かす、地道な繰り返しのなかで大きな結果につながるものが生まれてくるのが現実です。

もし今あなたが一人で広告運用を行っているなら、少しだけ勇気を出して、壁打ち相手を近くに見つけることをおすすめします。会社の同僚がもっとも現実的です。
その相手とルーティーンとして、テストを積み重ねていくようにします。早起きを習慣化するために友人と「朝活」の約束をするのと同じ要領です。そうすれば、毎週何時間もとられるような仕事にならずに済みますし、続けられるようになります。

3.結果の共有ができていない

広告運用のテスト結果は、驚くほど社内に共有されていません。仮に共有されていても真剣に検討されておらず、いつの間にか忘れ去られてしまっています。「あぁ…なんてもったいない!」と筆者はつくづく思います。
テストにかぎりませんが、広告を運用する担当者が日々触れている広告の成果のデータは、ユーザーの声そのものです。リアルな店舗に置き換えれば、担当者はお店に来たお客さんへの接客をしてその行動を把握している、いわば店長です。

広告運用の現場で機械学習は進化していますが、まかせっきりで最大の成果を得られるわけではありません。私たちがユーザーを理解し、学んで改善するなかで自社のデジタル上のアセットが充実します。機械学習を使いこなす意味でも、テストを記録しその学びを蓄積・共有していくことは重要なのです。

これら3つの課題を見ることで、複数人で広告のアイデアを考え、テストを記録し継続的に蓄積・共有していくという方向性が浮かび上がってきました。次に具体的にどんなテストを行うかや、テストの管理方法について見ていきます。

絞り込むのではなく積み上げる~顧客創造型広告のテスト

先日、筆者は広告運用を「獲得偏重型」から「顧客創造型」に捉え直す提案をコラムで書きました。獲得偏重型広告で行われるテストは、反応率を高めて獲得効率を上げるために広告を絞り込んでいきます。

一方の顧客創造型広告は、軌道に乗った検証済みの顧客層ではなく、新たな顧客層を検証して軌道に乗せることを狙います。自社の商品/サービスを利用いただける顧客層を増やすという意味で「積み上げ型」のテストと言えるでしょう。


例えば「安くてカラバリ豊富な」ワイヤレスイヤホンという切り口が検証済みで効果的だったとしましょう。これは現在の商品が「安くてカラバリ豊富な」ワイヤレスイヤホンとして顧客から受け入れられているということだと考えられます。
この広告を勝ちクリエイティブとして絞り込むのではなく、まだ検証ができているわけではないが、新たな顧客層の候補としたい切り口を検証します。

この切り口は前回のコラムで記したように、行動観察や顧客インタビューから得たヒントを含め、複数人で共同編集したものです。ここでは仮に(激しいワークアウトで深い集中をしたい人に)「タフでガンガン使える」、(AirPodsをねだられる子を持つ親御さんに)「家族がみんなで使える」、(どんな音楽よりも静寂を必要としている人に)「つけるとぐっすり眠れる」、(3,000円台で買える手頃な贈り物を探している人に)「プチギフトにおすすめな」ワイヤレスイヤホンとしておきましょう。

そしてテスト検証によって有望な切り口が見えれば、商品/サービスの見せ方や商品/サービスそのものを改良をしていく。これにより自社の商品/サービスがさまざまなシーンで利用できるようになります。これが、顧客層を積み上げるということです。

南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ氏とジェニー・ロマニウク氏は『ブランディングの科学 新市場開拓篇』のなかで、ブランドのメンタルアベイラビリティ(想起のされやすさ)を構築するには、ユーザーが選択肢を絞り込むときのきっかけとなる連想=カテゴリーエントリーポイント(※)の数をできるだけ増やすことが必要である、と述べています。

何か1つの強みに絞り込むことでニッチはとれるかもしれませんが、ビジネスの成長を続けたい場合それだけでは不十分です。自社の強みを活かしながら、新たなきっかけから利用いただける顧客層を広げていく必要があるのです。

※カテゴリーエントリーポイント(CEP)…ブランド(商品/サービス)が想起される入り口のこと。同書では、マクドナルドと朝食の例が挙げられている。朝食を食べるタイミングで、選択肢としてマクドナルドが思い浮かぶ。このときの「朝食」がカテゴリーエントリーポイントである。調査結果から、市場占有率が高いブランドは低いブランドより多くのCEPで想起されることが示されている。

レスポンシブ広告はテストに向いていない?

現在進行形で広告運用に携わっている方であれば、Google広告の広告フォーマットが検索広告もディスプレイ広告も「レスポンシブ型」が事実上スタンダードになっていることをご存じでしょう。レスポンシブ広告は、アセットと呼ばれるテキストや画像などを複数入稿すると、さまざまな組み合わせで広告が配信されるものです。上の図示を見て、レスポンシブ検索広告のアセットのことかな、と思った方もいるかもしれません。

しかし筆者は現時点でレスポンシブ広告は、顧客創造を目指した積み上げ型テストにあまり向いていないと考えています。なぜか? この広告フォーマットがあらかじめ獲得効率を上げる「絞り込み型」の広告向きに設計されているように思えるからです。クリック率が高いアセットが残り、低いアセットはほとんど露出されないことがしばしば起きます。加えて、商品・サービスを成長させるという観点で、人間が学びを得られる要素が小さいように思えるのです。

では、どんな広告フォーマットが積み上げ型テスト検証に向いているのか?よく使われる広告媒体内で向いているものを簡単に記しておきます。

Yahoo!ディスプレイ広告(YDA)のブランドパネルやYahoo!ニュースほかYahoo!サービス内に出す静止画バナー、Facebook広告の画像(+テキスト)広告などは向いています。
ただし、YDAは年度末には予算執行が目的と思われる大量出稿があったり、メガ企業が大きなキャンペーンを実施するなどで、一時的にCPCが上がったりインプレッションシェアが下がることがあるので注意です(そんなときは決して勝負せずにやり過ごします)。

Google ディスプレイ広告(GDN)の静止画バナーも活用できます。ただ、配信面が多岐にわたるGDNに対し、配信面がシンプルであるYDA(Yahooのトップページ、Yahoo!サービス内、それ以外)やFacebook広告(Facebook内、 Instagram内、それ以外)のほうが変数がシンプルなので検証しやすいです。

動画フォーマットであれば、YouTube、YDA、Facebook広告はいずれも向きます。ただ制作の手間を考えると、静止画から行うほうが現実的です。

Googleの検索広告は2022年6月末以降、Yahoo!検索広告は2022年9月末以降はレスポンシブ検索広告だけしか作成できなくなります。今後の進化でどうなるかはわかりませんが、顧客創造を目指した積み上げ型テストとしては、筆者は今のところ難しさを感じています。こんなよい方法があるという方がいれば、教えていただければ嬉しいです。

広告テストの管理方法~テストの構造化とNotion活用

継続的なテストを行うには、テスト自体を構造化しておくことが重要です。
構造化というと難しく聞こえるかもしれませんが、テストについて以下のような項目をあらかじめ洗い出して言語化しておくことです。

  • 仮説と目的
  • ターゲット層
  • ターゲット層の状況(検討段階)
  • 接点(広告媒体)
  • テスト要素と広告フォーマット
  • テスト期間

以下のような要領でExcelやGoogleスプレッドシートにまとめます。特別なものでもないので、ふだんから広告運用の現場で手を動かしている方なら、近いことをやられている方も多いでしょう。今メインで使用中の広告クリエイティブと、新たにテストする広告クリエイティブがどちらも載っています。

ここには記していませんが、テストを行った後で「結果と考察」なども記していきます。
実務ではテストの連続になるため、テストを行うごとに必ず同じ項目を毎回記述します。こうしてテストをデータベース化するのです。そうなると、テスト全体を管理するためのシートが別に必要になることがわかるでしょう。それはこんなものになります。


ExcelやGoogleスプレッドシートの場合、シートをリンクするなどして管理します。
継続的なテストの実行には、さらに「スケジュールの管理」をする必要があるのですが、ここでNotionを使うととても便利です。
今挙げた「テスト全体の管理」「テスト内容の詳細の管理」「スケジュールの管理」がすべてNotionに集約できるからです。
Notionではデータベースのテーブルをデータ型を選んで自由に作れます。まずはこんなふうに1行1テストで、テストを構造的に記述していきます。これによってまず「テスト全体の管理」が可能になります。


Notionではこのテーブルで日付のデータ型を作ることによってガントチャートも同時にできてしまうので、テストを継続的に実行するための「スケジュールの管理」もできます。

加えて、テスト1つ1つのテストの背景や仮説、クリエイティブや結果などは、Google スプレッドシートであれば先にお見せした「テスト内容の管理」シートを作成して「テスト一覧」のシートとリンクする必要があります。Notionであれば、テスト名の列の「日常的に運動している人に33を使ってもらうためのテスト」は新たなページを開けるようになっていて、そこにGoogle スプレッドシートの「テスト内容の管理シート」に書いていたような内容を記述しておくことができます。
こんなイメージです。

筆者の経験では、Google スプレッドシートにバナーなどの画像を貼ると位置がずれてしまうことがよくありましたが、Notionのボードに集約することで解決しました。管理の手間が省けるだけでなく、何をテストしているのかも関係者に伝えやすくなります。

このNotionのボードを関係者と共有することで、いつどんなテストが行われているか(現在)、行われていたか(過去)、これから行われるか(未来)までここにまとまります。
例えば新しいメンバーが入ったときに、このページを見せながら経緯を説明することにより、オンボーディングに活用することも可能になるでしょう。

なお、現時点では、Notionに細かい数字のデータを入れることは向いていないように思えます。1つのテストが終わったら考察や次のアクションを中心に記述するようにして、広告媒体から出力される詳細な結果は、スプレッドシートや別のツールにリンクさせて見てもらうようにするのがよいでしょう。

終わりに

今回はよくあるテストの課題から、顧客創造を目指して「絞り込むのではなく積み上げる」広告のテストを紹介し、広告フォーマットの向き不向き、Notionを使った管理方法のヒントまで共有しました。
どれも難しく考える必要はありません。あなた自身が実際に手を動かしてみれば、わかってくることがあるはずです。1つでも興味を持った方は、ぜひやってみてください。あなたの担当する商品/サービスを成長させるための助けになれば幸いです。

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