広告運用者のみなさん、インタビューをしませんか
2023年02月28日
ライター:寳 洋平

広告運用を行う上で、担当する商品・サービスがユーザーにどのように使用され、どう受け止められているかを理解することはきわめて重要です。理解のための有効なアプローチとして、ユーザーへのインタビューがあります。心理学などの質的研究におけるインタビューの考え方と方法について、筆者自身のインタビュー経験を交えながら紹介します。

  1. 広告プラットフォームの仕様や機能も大事だが…
  2. ユーザーへのインタビューで求められる慎重さについて
  3. 聞いたつもりで何も聞けていないことがある
  4. インタビューは聞き手と語り手が共同でつくる対話の場
  5. 「問い方」でインタビューは変わるー6つの問う技法
  6. テキストに起こして気になる箇所にラベルを貼る
  7. おわりに

1.広告プラットフォームの仕様や機能も大事だが…

自分の担当する商品・サービスを購入してみたことはありますか。広告運用業務に携わる方から話を聞いていると、それが大事だと知っている方は多いものの、実践している方に出会うのは意外と少ないことに気づきます。

実際に購入体験することで、利用者の視点に立って気持ちを理解しようとする。そこから気づきを得て「~のようなアプローチが適切なのではないか?」と新たな仮説を生んでいく。当たり前ともいえるこのことこそ、適切な広告運用をする上で重要だと筆者は考えています。

運用型広告は、ビジネスの目的や狙いを反映させるように設計・設定を行い、広告を展開していくものです。そのため、商品・サービスおよびユーザーへの理解がよわいと、成功の定義からコンバージョンの設計、ターゲティングの設定、広告クリエイティブの作成まで、中途半端なものになってしまうのです。

広告運用に携わって間もない方や、2-3年という方のなかには、広告プラットフォームの仕様や機能に関する知識を身につけたり、キャッチアップしたりすることのほうに目が向いている方もいるかもしれません。しかしそこだけに重きをおきすぎず、担当している商品・サービスおよびユーザーへの理解を深めることに時間を割くことをおすすめします。

広告プラットフォームの仕様や機能は重要ですが、前提として商品・サービスおよびユーザーへの理解があって初めて設計や実装が活きるということです。いちばん簡単で、かつ最初のきっかけとなるのが、担当する商品・サービスを自分で利用してみることになるでしょう。

2.ユーザーへのインタビューで求められる慎重さについて

さて、話はこれで終わってもいいのですが、ここからがはじまりです。今回はもう一つのアプローチ方法の話をさせてください。それが「インタビュー」です。

前述の「担当する商品・サービスを自分で利用してみる」という方でも、ユーザーにインタビューをして話を聞いているという方はさらに少ないかもしれません。やることがいろいろあってそこまで手が回らない、という人がいることもわかります。でもこれ、大事なのです。

商品・サービスおよびユーザーへの理解という点で、自分で商品・サービスを利用してみることと共通しています。しかし、自分が利用することで得られる気づきと比べても、インタビューではより多くの気づきをもたらし、そこから仮説を生んでいくことが可能になります。

ただし、注意も必要です。

筆者の経験に即して考えると、自身で商品・サービスを購入してみるとき、担当する商品・サービスを提供する立場で冷静に観察する自分自身と、ユーザーになりきった自分自身との2種類の視点を持つつもりで向かい合います。

しかしこのとき、冷静に観察しているつもりで、手近にある知識と経験で結論をつなぎ合わせてしまうことがあります。特に、自分がユーザーの属性とかけ離れている場合などに起こりがちです。先入観やバイアスが顔を出して、発見できるかもしれなかった気づきの一歩手前で、もっともらしい結論を作ってしまうのです。このことに対して、私たちは常に慎重になる必要があります。

では、 実際のユーザーから話を聞けるインタビューなら、こうしたバイアスなどを乗り越えられるでしょうか? 商品やサービスについて自分自身で答えを出すのではなく、直接ユーザーから話が聞けるわけですから。ところが、そう簡単な話でもないのです。

インタビューでもまた、慎重さが求められます。実際、インタビューは、相手から聞いたつもりで何も聞けていないことがあるのです。

3.聞いたつもりで何も聞けていないことがある

デジタル広告運用に従事する前にライターをしていたことがある筆者は、ある先輩ライターからインタビューするときの心構えについて、以下のようなアドバイスを受けたことがあります。

取材相手について、できるかぎり徹底的に事前準備をしておきなさい。でもインタビューの現場では、その知識を裏切るような話が出たときが取材のはじまり。事前準備の答え合わせのような取材だけはしちゃだめだからね。

ある先輩ライターの言葉より

事前の調査は必要であるが、そこで得られる知識のなかにとどまるかぎり、インタビューで相手から本当に何かを聞けたことにはならない、ということです。事前の調査だけで成立する内容であれば、そもそも実際の相手からじかに話を聞く必要などないわけですから、考えてみれば明らかです。

ただ、わかってはいても、この「答え合わせ」のようなインタビューをしてしまうことがよくあるのです。このコラムでお話している、商品・サービスを利用するユーザーを理解するために行うインタビューにおいても同様のことが言えます。

インタビューをするときには必ず、先入観やバイアスに対して慎重になりながら「想定していたユーザー心理とは異なるのかもしれない」とか「商品の魅力の伝え方を考え直す必要がある?」などと、対話で出てきた可能性をヒントとして検討する必要があると言えるでしょう。

4.インタビューは聞き手と語り手が共同でつくる対話の場

では、実際にどうすれば実りあるインタビューができるのでしょうか。それを知る前に、インタビューの考え方について理解しておきたいことがあります。

一般に、インタビューは「語り手のなかで固定された情報や記憶を、聞き手が引き出すことである」と捉えられがちです。そして、語り手から聞き手がうまく話を聞き出すには、自らの主観を排して「客観的な傍観者」として向き合うべき、というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

ところが、近年のインタビューについての考え方は変わってきているのです。

ナラティブ(語り・もの語り)研究が専門の心理学者・やまだようこ氏は、インタビューは「インタビュアーとインタビュイーが相互にアクティヴに関与する『相互行為』『共同生成』『対話』の場」であると述べています(やまだようこ著作集 第5巻 『ナラティブ研究 語りの共同生成』より)。

『ナラティヴ研究 語りの共同生成』をもとに筆者作成

語り手が何をどう語るか。その内容は語り手の中で固定化された不変のものではありません。聞き手が何をどう問うかによって語り手の考えや思いも変わってくる。だから、語り手と聞き手が共同で生成する対話の場である、というのです。

インタビューをこのように捉えると、聞き手は「客観的な傍観者」とはまったく違うことに気づくはずです。むしろ、傍観者とは正反対。語り手とともにインタビューの場をつくりあげる、進んで場に参加する存在なのです。

やまだ氏はこうしたインタビューの状況において、聞き手にとって重要なのは「問う」ことであると述べています。「聞く」ことが語り手の話を傾聴するという意味で受け身の姿勢なのに対し、「問う」ことは語り手の話をどこまで深いところまで展開できるかを狙う、とことん能動的な姿勢です。

5.「問い方」でインタビューは変わるー6つの問う技法

ここからが、このコラムで最も読んでいただきたいパートです。

やまだ氏は相手の語りを生み出すインタビュアーの問い方を6つに分類しています。特にマーケティングの目的に特化して書かれたものではありませんが、商品・サービスおよびユーザーの理解を深めるインタビューをする上で、知っておくと役立つものばかりなので紹介させてください。

ワイヤレスイヤホンを利用するユーザーにインタビューをしている筆者作成の架空の例を挙げながら見ていきますが、6つの分類について興味を持った方はぜひ原典も読んでみてください。

5-1.「具体化」

具体的エピソードや詳細な経過、具体例を聞くための問いです。ごく一般的な人間の語る話は「いつ」「どこで」「誰と」など、具体的な情報が抜けていることがほとんどです。常に5W1Hを的確に盛り込んで語れる人など、よほど取材に慣れた有名人くらいのものでしょう。

だからこそ、ここに「問い」によって話を深めるチャンスがあります。

語り手の話に共感しながら、たんなる相槌に徹するのではなく一歩踏み込んで、語り手が話を詳しく続けられる「具体的な問い」を投げ込んでいく。これが「具体化」の問いです。

問うフレーズ例は「たとえばどんなことがあったのですか?」「もうちょっとそのときのことを詳しくお聞かせいただけますか?」「なぜそう思ったのですか?」など。

この問い方次第で、インタビューが表面的な内容になるか、一歩深い内容まで発展するかが分かれるとやまだ氏は書いています。

例えば、語り手から好きな音楽を共有する友人の存在が浮かび上がってきたなら、この人にとって音楽とはイヤホンを聴きながら一人の世界に没入するものではなく、旧友との記憶を蘇らせてくれるものでもあると気づくかもしれません。それが機能やサービスのヒントにつながることもあるはずです。

5-2.「要約化」

確認したり、同意したり、簡単に要約するための問いです。要約の問いの役割は相槌と近いです。商品・サービスといつ出会い、どう感じたかなどをすらすらと言語化できる人はまれで、おぼろげな記憶を行ったり来たりしながら、何度も語り直していくことになります。記憶に曖昧なところがあるがゆえに、聞き手による相槌は支えとなり、語り手は自信を持って語りを続けることができます。

問うフレーズ例は「なるほど、◯◯ですね?」「それはつまり◯◯ということでしょうか?」など。

筆者の経験では、いざインタビューの現場で要約することは難易度が高く、無理すると要約したつもりで、語り手の言っていることとは異なるニュアンスで捉えてしまうおそれもあります。あくまで語り手が自分にとって自然体の言葉で語れることが大事です。なので、語り手の言葉をほぼそのとおりの意味の言葉で返すというのでも、役割として十分に機能します。

5-3.「一般化」

一般化したり、話を広げるための問いです。具体化とは逆ですが、この問いでは相手に深く切り込むことはしません。インタビューの開始時、語り手との関係を築く際や、ダイレクトに聞きにくい話題のときに使えます。語り手に安心していただき、警戒を解いていただく役割です。

問うフレーズ例は「もしあなたが◯◯の立場だったら?」「例えば◯◯のような場合はいかがでしょうか?」など。

ちょうど例に挙げたように、聞き手があえて自分のことを少し話した上で語り手に振るのが、やりやすい方法だと筆者は考え、使っています。

5-4.「明確化」

正確にしたり、明確にするための問いです。具体化と似ていますが、事実関係をはっきりさせる役割があります。インタビュー内容は文章に起こして、商品・サービスの今後について考えていくのに関係者が読むことになります。商品・サービスの利用日時、併せて閲覧したサイト、出来事が起きた順番などの事実関係をはっきりさせることで、解像度が上がって検討しやすくなります。

問うフレーズ例は「その◯◯の名前をもういちど教えてもらえますか?」「ちょっと確認ですが、その出来事は◯◯の前でしょうか? 正確にはいつになるかお聞きしたいです」など。

問い詰めのようになると、語り手が引いてしまうので注意です。この問いを上手に、やわらかく行うには、語り手のことをもっと知りたいという姿勢が大切です。

5-5.「転換」

話題を転換するための問いです。本コラムで想定するインタビューは、大まかな流れは用意しながらも語り手の自由な語りに応じて即興で話を発展させていく、半構造化インタビューという方法になります。話が大きく脱線して本題から遠ざかることはどうしても出てくるので、軌道修正をする役割です。

問うフレーズ例は「ちょっと戻りますが、◯◯は?」「話は変わりますが、◯◯についてはいかがですか?」など。

インタビューの現場では、終わりの時間が迫っているなど焦ることもあるでしょうが、語り手の話をさえぎるのは避け、ひととおり話を終えた区切りで使うのが重要です。一瞬間を開けて、話を変えます。

5-6.「むすび」

別のものと関連付けたり、比較を行うための問いです。語り手の話と、別の視点の話題をあえてぶつけて、両者をむすびつけるというやり方です。これが最も対話的と言える問いでしょう。

問うフレーズ例は「例えば、◯◯と比べるといかがでしょうか」「別の立場で、◯◯という見方を持つ人もいますよね」など。

上記の例では、聴いている音楽の話から新たに「表現活動」という別の文脈を入れています。うまくいけば語り手の考えを深くまで知ることができます。ただ、対立軸を作ることになるとも言えるので、言い合いになってしまうこともあり、そうなったときには修復します。

上級者向けの問いなので、他の問いを使いこなせるようになってから挑戦してもいいと思います。

6.テキストに起こして気になる箇所にラベルを貼る

ユーザーインタビューを終えたらそのままにせず、必ずテキストに起こします。音声をテキストに起こしてくれるツールがあるのでゼロから起こすよりも時短になります。筆者はPremier ProやGoogleドキュメントを使っています。

起こしたテキストを読み返しながら、気になる箇所にラベルを貼るのがおすすめです。こうすることにより、商品・サービスの改善案出しや広告のアイデアのヒントとして使いやすいためです。関係者と共有し、活用していきましょう。

7.おわりに

商品・サービスおよびユーザーへの理解を深めるためのインタビューの考え方について共有しました。昨今、聞けばすぐに整理された答えが返ってくる便利なツールが注目を集めています。

一方、インタビューで得られるのは一次情報です。語り手の話はもっと混沌としているかもしれません。しかしながら、語り手ですら意識できていない商品やサービスへの欲求などが息づいている可能性があります。そして、これまでの想定を裏切られるようなことにこそ、ヒントが詰まっています。手間はかかりますが、担当する商品・サービスを健全に成長させる上で、不可欠となるアプローチだと筆者は考えます。

広告運用に従事する方がインタビューを実践して、得られた気づきを基に広告のアイデアを広げたり、商品・サービス自体の改善するきっかけとしていただければ幸いです。

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