ひとりではなく共同作業でアイデアを広げる~Miroで実践、顧客創造型広告テストのアイデア拡張のステップ
2022年04月21日
ライター:粂野 三佳

近年、広告運用は媒体の機械学習の進化によって自動化が進んでいます。それに伴い、運用者が担う部分は変化してきました。運用者は設定方法や入札のテクニックではなく、配信する広告そのものやランディングページの改善によって広告パフォーマンスの向上を図るようになっています。
このようなアプローチに欠かせないのが、広告やランディングページ改善のもとになるアイデアの発案です。

昨年、アユダンテでは、広告の役割を捉え直した「広告クラフティングサービス」を開始しました。その中で大切にしていることのひとつが「広告アイデアの拡張」です。アイデアの発案と拡張は切っても切り離せないものです。

このコラムでは先日公開された『広告の役割を「獲得偏重型」から「顧客創造型」に捉え直す』でも紹介されたMiroを使った「広告アイデアの広げ方」をご紹介します。

広告アイデアを広げる目的

広告の重要性が高まる現在の広告運用の中で、広告のABテストを行い、結果検証をする頻度も高まっているのではないでしょうか。
広告テストの際、どのようにテストのアイデアを出せばよいのでしょうか。アイデアが枯渇し、同じようなテストを繰り返してしまった経験はありませんか。
広告のテストにおいて、私が考える最も大切なことはユーザーの視点に立つことです。

では、ここでの「ユーザー」とは一体誰のことを指しているでしょうか。

もともと想定されているターゲットと呼ばれるユーザーを指して、「ユーザー」と捉える場合と、広告にふれる可能性のある全ての人を「ユーザー」と捉える場合とでは視点も考え方も大きく異なります。
現在の運用型広告は「獲得偏重型」として活用されていることが多く、前者を指して「ユーザー」と表現し、そこに対して実行する打ち手を考えることが多いのが現実です。後者を「ユーザー」と捉えてみるとどうでしょうか。
視点を変えてみると、目の前にはもっと多くの可能性が広がっていることに気が付きます。広い視点で広告のアイデアを考えてみましょう。広告のアイデアを広げることによって、これまで気が付かなかった顧客の発見につながると考えています。

広告アイデアを広げる方法

運用型広告は、コンテンツや商品情報などデジタル上の自社が保有する「アセット」を使って出稿するようになっています。
広告のアイデアを出す際には、「アセット」の抽出と整理が必要です。整理したアセットからベネフィットや想定されるターゲットのイメージなどを作ると、これまで考えつかなかった広告の訴求が見つかることがあります。
アセットの抽出と整理に、Miroをよく利用しています。他のものでも代用は可能ですが、共同作業がスムーズで直感的な操作が可能なMiroはおすすめのツールのひとつです。
今回はMiroを使ってアイデアを広げるステップを解説します。広告アイデアを広げるには、「一人で作業しない」ことが重要です。営業やカスタマーサポートのメンバーや部門責任者、可能であればさらに事業責任者などにも参加してもらうことで、様々な視点から自社のアセットを洗い出すことができます。
このプロセスで多くの方が関わることが、広告の結果からの気づきを様々なビジネス活動に活かすきっかけになります。

広告アイデアを広げるステップ

広告のアイデアを広げるステップを、以下の6つに分けて詳細を解説します。

  1. アセットの抽出
  2. アセットの分類
  3. 仮説の立案
  4. ターゲット(Who)やアセット(What)の選定
  5. 選定したアセットから得られるベネフィットの考察
  6. 広告訴求としての要素(How)の検討

1. アセットの抽出

まずは、Miroでアセットを入れる箱(枠)を用意します。参加者全員で意見を出し合い、1付箋、1アセットとなるようアセットを追加します。アセットは、商品/サービスの持っている機能や特徴を主に指します。サイト上の情報はすでに言語化されている場合が多いので、Miroの付箋に単語やフレーズを抜き出す要領でスムーズに進められると思います。
別コラムでも紹介しているインタビュー(後日公開予定)、行動観察、物語のコラム(後日公開予定)で紐解いたジョブを見極める5つの要素や競合調査などからの情報、ソーシャルリスニングで得られた口コミなどもアセットに含めます。
それらの情報のアセットへの落とし込みは、気になる情報やフレーズにひとこと見出しを付け、ひとつのアセットとします。ジョブを見極める5つの要素はその要素ひとつひとつがアセットになり得ます。
このアセット抽出の場面では、参加者個人の主観的な意見も含めてよいと考えています。幅広く見ていくことで、まだ見えていないアセットが見つかりやすくなります。正解、不正解はないので、気づいたことをとにかく出し切ることが大切です。

Miroでアセットを整理する Miroでアセットを整理する2

2.アセットの分類

抽出が終わったら、全てのアセットを分類、整理します。分類、整理するときにはそのアセットがどのような価値を持つのかを考え、言語化します。
言語化するときには「顧客がほしいと思う30の「価値要素」」*を参照して、「機能」「感情」「人生の変化」に沿って考えるとします。

例えば、ワイヤレスイヤホンの広告のアイデアを検討しているとします。アセットとして「バッテリーが長持ちする」機能があります。これによる価値は「長時間の外出でもバッテリーが切れない」というバッテリー切れのリスク軽減の機能的価値があると言えます。また、「バッテリーが切れる不安の解消、安心感」の情緒的価値があるとも言えます。人生の変化としては不安から開放された自由な生活の希望へと繋がります。
このようにアセットを価値要素に分解して言語化します。いくつかのアセットは同じ価値に集約されていくこともあります。
難しく考えすぎると行き詰まってしまうため、「だから何?」と問いかけてみましょう。抽出したアセットに対して「だから何?」と問いかけると、回答はアセットから得られる価値を自然と表現したものになります。
分類、整理をするときの合言葉は「だから、何?」です

Miroでは価値要素ごとのフレームを作成して、価値へ言語化したアセットを配置します。

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*「顧客がほしいと思う30の「価値要素」」エリック・アルムキスト ジョン・シニア ニコラス・ブロック著

3.仮説の立案

次に仮説を立案します。価値要素として並んだ付箋を俯瞰してみると、これまで見えていなかった価値が含まれていたり、いくつかの価値の組み合わせがひらめいたりするでしょう。
それらはどのような人に対しての価値となりますか。
価値の組み合わせによって、これまでは考えていなかった、ユーザーの抱える問題が見えますか。商品/サービスはその問題の解決法になりえますか。
新しいアセットや価値要素の新しい組み合わせからのアイデアを参加者間で共有し、ディスカッションをしながら複数の仮説を立案しましょう。

4.ターゲット(Who)アセット(What)選定

仮説からターゲット像、仮説に合致するアセットを抜き出します。広告においては「誰に(Who)何を(What)どのように(How)伝えるか」が重要になります。その中のWhoとWhatを選定するプロセスです。
誰に何をどのように伝えるか
誰に(Who)、何を(What)が決定してはじめて、どのように(How)を考えることができるのでHowを先に考えないように注意が必要です。新しく考えた仮説から、どのような人がターゲットになりうるのかを言語化します。次に、Miroでアセット収集したものの中で仮説にあうアセット、ターゲットにとって価値となるアセットをいくつかピックアップします。2~3つ程度にとどめましょう。含めるアセットが多すぎると伝えるべきことが伝わらなくなります。

仮説から考えたターゲット

5.選定したアセットから得られるベネフィットの考察

2.のプロセスで選定したアセットから得られる価値、ターゲットにとって価値となることをなるべく端的に「伝える価値」として言語化します。このとき、一つのターゲットに対して、複数の価値が想定される場合は分割します。この価値にあたる部分が広告で言う「訴求」にあたります。どんな価値を伝えることがターゲットに響くのかは、広告のテストを通じて検証していきます。

6.広告訴求としての要素(How)の検討

最後に、訴求として利用するアセット、そこから考えられる価値を表現するのに適切だと思われる広告の要素(How)を検討します。要素、というのはテキストとして使いたい単語や画像として含めたい具体的素材名、価値を表す形容詞(高級な、きれいな、明るいなどのイメージワード)、表現したいものに似たイメージの画像などを書き出したり、画像を添付したり、表現に役立つ要素を集めます。
それらが完成したら、その要素を使って、実際の広告文やバナーイメージを作成します。

アイデアを広げるポイント

アイデアを広げるのに役立つポイントをまとめます。

1.複数の立場の参加者を募り、共同作業で実施する

普段は広告運用に関わらない方や立場の異なる方など、多様なメンバーを集めることで360度から意見を得ることができます。また、広告の配信結果などを共有する際にも多くの人が自分ごととして結果や気づきを受け取るような変化にもつながります。

2.正解も不正解もないことを全員が理解する

この作業に正解も不正解もありません。前提としてこれまで見えていなかったものを発見する目的の試みでもあります。誰にも結果はわかりません。自分たちの価値観で決めつけることなく、フラットな視点でそれぞれの意見や仮説を見るようこころがけることが大切です。

3.参加者が発言できるような工夫をする

様々な参加者でこの作業を行うと、発言する人に偏りが出ることがあります。発言権を順番制にするなど参加者に合わせてルールを設けることなども事前に検討しておくとよいでしょう。

Miroを使ったアイデア拡張の全体像はこのようなイメージになります。何度もこのボードに戻り仮説を考え直したりアセットを追加したり、継続的に更新しながら利用します。

Miroのアイデア拡張全体

参考:「アイデアの発案」https://miro.com/ja/online-brainstorm-tool/

おわりに

広告のアイデアを広げる方法を私たちは「クラフティング」と呼んでいます。広告クラフティングについては別コラムに書きましたが、学習を通じて発展していくプロセスと考えています。多様な人たちとの対話を通じて、新しい気づきを得ることができます。このクラフティングから、人とのつながりや他部署との連携が広がり、より大きな目標に挑んでいけるようになると期待しています。

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