私はアユダンテに2010年から在籍していて、デジタル広告を通じてクライアントのビジネスを支援する仕事をしています。一人の広告チームからはじまり、歩みのスピードは決して速くないものの一歩一歩着実に成長していて、チームのメンバーも少しずつ増え、これからも健やかに成長していきたいと考えています。健やかにというのは、無理しすぎず持続可能なかたちで、という意味です。
私はかねてから、アユダンテで働く人間の環境は恵まれていると思っています。特に「自分の強みを活かせる軸を持ちながら、近くのデジタルマーケティング領域についても知見を持つことができる環境に身を置いて成長したい」と考える方にとって十分な環境です。
恵まれた環境の一つに社内勉強会があります。2020年5月から週に1度程度やるようになり、先日数えたら200回を超えていました。そこで今回は、この勉強会について共有したいと思います。
- コロナのさなかに「こんなのがあったらいいな」でスタート
- 領域が違えば簡単には話がかみ合わない現実に対処する
- 話す人自身が話してもいいと思えるテーマ設定が原則
- GA4・SEO・広告・技術まで多様な知見が共有される場
- 暗黙知から形式知へと発展する知識スパイラル
- 勉強会参加者からのコメント
- 結びに
コロナのさなかに「こんなのがあったらいいな」でスタート
アユダンテの社内勉強会はZoomによるオンラインでの実施で、社内外のスピーカーがテーマに基づいて30-45分程度話した後、残りの15-30分、質疑応答やディスカッションを行うというものです。社員ならチームを問わず、誰でも参加できます。毎回だいたい5-15人が参加していて、過去に多いときには30人以上参加することもありました。
2022年頃から社内限定で録画を共有するようになったので、リアルタイムで参加できなくても後追いでアーカイブを観られるようになっています。新しくアユダンテにジョインした方がアーカイブを観ることも可能です。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴って日本で緊急事態宣言が出たのが2020年4月、勉強会をはじめたのが同年5月なので、社内でもリモートワークが増えたタイミングではじめています。特に誰かから命じられたわけではなく、こういうのがあったらいいな…という思いで自発的にはじめました。
こういうのがあったらいいな…を少しだけ具体的に言語化してみます。
デジタル広告のプロフェッショナルとしてクライアントに向き合っていても、広告以外のSEOやGoogle アナリティクス、タグマネジメントなどに関する質問や相談をいただく機会が多くあります。
企業がマーケティング活動を行う際、デジタル広告だけをやるということはないので、質問や相談が領域をまたがるのは当然のことでしょう。
ですが、クライアントから広告以外の領域について相談された際、自身だけで答えを出すのが簡単ではないことも多いです。現在、各領域の専門性は深く伸びており、一人ですべての領域をカバーするのは難しいです。
クライアントのサポートをするには、質問や相談の内容を的確に把握して社内の別のチームのメンバーに伝え、解決に導くための最低限の知識を持つことが必要であると、常日頃から考えていました。
領域が違えば簡単には話がかみ合わない現実に対処する
もう一つ、私自身がアユダンテという組織のなかで苦労してきたことがあります。
今だから書いてしまいますが、アユダンテでSEO、Googleアナリティクスおよびエンジニア領域のメンバーと話すとき、はじめのうちは話がまったくかみ合いませんでした。
アユダンテでは2015年頃からSlackを利用していて、ちょっとしたことを相談できるチャンネルがいくつも存在しています。ただ、クライアントからの相談を持ちかけたつもりで、エンジニアから「いただいている情報だけでは何もわからないですね…」と言われることもあったし、SEOのプロフェッショナルから「そういうのはSEOではないので…」と丁重にお断りされることもしばしばでした。
これはもちろん、人の好き嫌いという問題ではありませんし、エンジニア vs 非エンジニアなどという問題にも還元できません。一見近いように見える領域でも、使っている言語や価値観が相当に違うのです。
しかし、ただかみ合わないままあきらめたり、違いに目を背けていても、前に進めないのが現実です。勇気を出し、粘り強く対話するなかで、それぞれの領域が何をするものなのか、扱っている人間が何を重要視しているのかが徐々に理解できるようになり、意味のあるやりとりができるようになってきたーそんな経験があります。相手へのリスペクトを持つことが、違う言語や価値観を持つ相手とのあいだに橋をかける一歩になることも学びました。
チームをまたがってそれぞれのメンバーの持つ知見を共有し合うことにより、特に社歴の浅い人や新しく入ってくる方がする上記の苦労を少しでも減らせたらいいな…という気持ちがありました。いくらか後付けも入っているかもしれませんが、概ねそんな動機ではじめました。
話す人自身が話してもいいと思えるテーマ設定が原則
勉強会のテーマをどうやって決めているか。基本的には「話す人が話してもいいなと思えるテーマを話してもらう」ことに尽きます。きっかけは自分から持ちかけることが多いですが、テーマありきで無理にお願いするのではなく、あくまでその方が取り組んでいることのなかで話してもいいなと思える内容にします。資料を作りこむ時間を割いてもらうのも申し訳ないので、ありものを使って必要に応じて調整するくらいでお願いしています。
アユダンテでは社員一人ひとりの自律性が重んじられており、自分の深めたい領域を深めていける文化があります。自分がやりたいと思えば、知識・スキルを磨くために国内外のイベントに参加したり、興味のある分野について継続的に学んだりすることができます。このコラムを読んでくださっている方であれば、アユダンテのメンバーが自身の専門領域や得意分野でコラムや動画を発信していることはご存じでしょう。
なので、雑談をしているなかで自然に話してほしいことが出てくることも多いです。そんなときは会話しているうち「この話、勉強会でぜひ共有いただけませんか?」というかたちでテーマが決まります。話し手が話してもいいなと思えることであれば何でも、勉強会のテーマとして成立すると考えています。
新しくアユダンテに入ってきた人であれば、自分が興味があったり得意だったりで深めていきたいことを、チームを問わず社内の他のメンバーの方に知っていただくことにも活用できるので、そうお伝えしています。
GA4・SEO・広告・技術まで多様な知見が共有される場
直近3年(2022-2024年)でスピーカーになっていただいた回数をチーム別に集計してみると、GMPチーム、SEOチーム、広告チーム、DMEチームの勉強会が多いことがわかります。4つのチームのメンバーがどんなテーマで共有しているのか、いくつかテーマをピックアップしてみます。
GMP(Google Marketing Platform)チームの共有から
- GA4実践 導入・計測設定編
- GA4実践 レポート・分析活用編
- アンケート調査の考え方、やり方
- KGI・KPIの基本的な考え方
- 機械学習の基本
- ABテストを行う文化
- マーケティング・アジェンダの共有
- カンヌライオンズ参加報告記
SEOチームの共有から
- SERP分析
- EEATの基礎
- AI時代のコンテンツマーケティング
- Googleディスカバーの傾向と対策
- Googleの社内文書の流出をどう考えるか
- SEOとユーザー行動
- SMXの共有
- CONTENT MARKETING DAYの共有
広告チームの共有から
- BtoB広告運用のポイント
- Microsoft広告で今わかっていること
- 広告クリエイティブで大事にしていること
- レスポンシブ検索広告&ファインド広告の分析
- Miroをこんなふうに使っています
- YouTube広告→ブランド検索を計測する方法
- TikTok広告勉強会
- Google Marketing Liveの共有
DME(Digital Marketing Engineering)チームの共有から
- GTM設定の基本
- 分析を柔軟に手助けするTableau
- Chromeデベロッパーツールの使い方
- ChatGPTチームプランとGPTsについて
- 初心者向けSQL勉強会
- ベクトル検索について
- ダッシュボードに使えるデータの作り方、見せ方
- 生成AIを使ったペルソナ・カスタマージャーニー作成
それ以外にも外部から講師を呼んで話していただくことや、チームをまたがったコラボレーションの共有も生まれています。
暗黙知から形式知へと発展する知識スパイラル
この社内勉強会の取り組みが自分たちにとってどんな意味があるのだろうかと考えたとき、以前読んだ本の図が浮かびあがってきました。
野中郁次郎著『知識創造企業』より筆者作成
経営学者の野中郁次郎氏は『知識創造企業』のなかで「知識スパイラル」を提唱しています。SECIモデルという名で知られていますが、この文脈では知識スパイラルと言ったほうがしっくりくる気がします。これは個人一人ひとりのなかに眠っている暗黙知(言語化されていない知識や経験)を、形式知(共有可能な知識)へと変換し、個人から組織内へ、そして組織外へ向けて循環しながら新たな知識を創造するというプロセスです。
アユダンテ社内で日々繰り返される勉強会は、この知識スパイラルを促進する場として機能していると思います。各メンバーが自分の持つ知見や経験を言語化し共有することで、チーム内外に新たな学びや気づきをもたらし、他のメンバーの暗黙知とも結びつくことで知識の結合が生まれます。それらがクライアントへの提案に活きたり、コラムや動画などの外への発信につながることもあります。
こうしたプロセスを通じて、勉強会が単なる情報共有の場ではなく、個人やチーム、組織の知識創造を継続的に循環させる役割を担えるとよいなと思っています。
勉強会参加者からのコメント
勉強会によく参加している方からいただいたコメントを紹介します。
さまざまな分野の基礎やポイントを、その道のプロフェッショナルから丁寧に共有してもらえることが1番の魅力と感じています。私はこの世界に入って1年ちょっと。初心者にもわかりやすく質問も可能なこの勉強会は、流して聴いているだけになってしまいがちなYouTubeや講座受講などよりも価値があり、アユダンテにいるからこその特権と思っています!(SEOチーム/田村彩香さん)
普段触れる機会の少ない専門的な話を聞けるだけでなく、間接的に広告運用のヒントを得られることがあります。また、スピーカーが情熱を持つテーマが取り上げられることが多いため、その人が興味を持つ分野についての最新情報や個人的な見解などもあわせて聞くことができるのは貴重だと思っています。(広告チーム/村松澪さん)
さまざまな分野のスペシャリストの話を聞けるとても貴重な場だと思います。自分の業務にリンクできる内容もあり、自身のリテラシーなどをより深く、広くすることができクライアント様への対応に深みを持たせることができています。
また「実はこんな知見やスキルを持っていました」という日常業務だけではうかがえないような話も聞ける面白い場でもあると思います(私も「データドリブン」と「アクアリウム」をかけ合わせた話をさせていただきました)。こうした場を通じて、たくさんの刺激や新しい知識を得られるのが本当にありがたいです。(GMPチーム/藤田佳浩さん)
勉強会に参加して特に良いと感じるのは、普段接点の少ない他チームの専門的な知見や最新トレンドを学べる点です。各領域のプロフェッショナルが、実践で得た知見を惜しみなく共有してくれるので、自分の担当領域以外の視点や考え方を吸収できます。また、質疑応答の時間では、参加者それぞれの経験や視点からの質問やディスカッションが行われ、新たな気づきが得られることも多いです。この勉強会を通じて得られた知見は、クライアント対応の幅を広げることにもつながっています。(DMEチーム/春山勇悟さん)
結びに
200回続いた区切りということで社内勉強会について書いてきましたが、タイトルを「わかってきたこと」としているように、明確な答えが出たというつもりはなく、あくまで現時点における認識です。その前提で、勉強会を継続する上で大切なのは「健やかな成長」を目指すことだと考えています。無理をせず自分たちがやりたい、やる価値があると思えるかたちで続けていくことで、結果的に継続する場になっているので、これからもそのスタンスで続けていきたいと思います!