【企業インタビュー】冊子コンテンツでお客様とのつながりを深める―株式会社ナチュラル・ハーモニー

2014年06月11日
ライター:寳 洋平

自然栽培の農作物の宅配サービスはじめ、直接店舗・レストラン・法人向けなどさまざまな形で提供しているナチュラル・ハーモニー。同社は今、10年続けてきた宅配サービスの会員向け冊子「TUMUGI」に改めて力を注いでいる。TUMUGIはWEBではなく、紙。時代を逆行するようにも思えるコンテンツだが、会員からの反響は毎回多数寄せられ、好評だ。これらのコンテンツはどのようにして生まれるのか。取り組みを取材した。

  1. 原点は「八百屋」。八百屋としてちゃんとやる
  2. 女性の生活者の視点がより反映された冊子「TUMUGI」のリニューアル
  3. 会員への情報発信だけでなく、新しいお客様に興味を持っていただくきっかけ作りにも
  4. コンテンツを生み出す体制について
  5. コンテンツは「スイッチ」「関係性をつくるもの」「種」
  6. 今後のコンテンツの取り組みについて
株式会社ナチュラルハーモニー ご担当者
左:吉村 鮎……本部 販促デザイン室長/アートディレクター   中央:田辺 寛雄……宅配事業部長
右:尹 東三……宅配事業部 編集チーム長/「TUMUGI」編集長

原点は「八百屋」。八百屋としてちゃんとやる

――お時間いただきましてありがとうございます。最初に事業内容についてお聞かせください。

尹(ゆん)軸となる商材は、自然栽培の農作物、そして蔵つき天然菌で醸す醗酵食品です。定期宅配、WEBショップ、レストラン、直営店舗、法人さまへの卸などへの食材提供をはじめ、単発から最大1年に渡って行う「医者にもクスリにも頼らない ナチュラルライフ実践講座」や、農家さんを訪問する「産地ツアー」らを商材とし、衣・食・住に限らず遊ぶ・学ぶも通じて多角的に「自然から学ぶ 自然と調和した暮らし」の提案・提供をさせていただいています。一言でいうならば「ナチュラルライフの提案・提供」ですね。

田辺トラック1台の引き売りからお客さんの居ない中で立ち上げてきたため、事業としてなんですかと聞かれると、やはり「八百屋」なんですよね。八百屋が八百屋をちゃんとやろうと、本当にいいと思うものをお届けしたり、こういうものをつくろうよって農家さんと話して作ってもらったり、本当に食べていただきたいなと思ったものを消費者の方に提供してきました。
さらに原点としてあるのは「自然から学ぶ生き方」、要約してナチュラルライフの提案とお伝えしています。それぞれの個性・特性がいきいきと発揮される調和した暮らしづくりのお手伝い、ともいえます。
弊社代表の場合は野菜を媒体として、創業当初から自然栽培野菜の店を目指していました。でも「自然から学ぶ生き方」って、どんなものでも元をたどれば「自然」になるから、野菜に限らずいろんな媒体で伝えられます。地味でゆるやかな歩みだけど、仕事を続けるうちに、やっぱり食だけじゃなくて他の分野にもつながっているねと、衣や住などにも広がってきました。あとは、ワークショップや農業体験などの「遊(び)」、ナチュラルライフってそもそもなんだろう、を勉強するセミナーなどの「学(び)」を通じた仕事にも派生しています。

――八百屋をちゃんとやる、という軸から事業が広がってきている。これは実際に冊子を作られている尹さんや吉村さんにとっても同じ意識でしょうか?

僕はハーモニック・トラスト(宅配サービスの名前)のセンターで働いているんですけど、正直いって野菜にそんなに触れているわけではないんですよ。

――なるほど。それは意外ですね。

この時期は夏野菜の苗を育てたりはしていますが、仕事の主軸としては、ほとんどPCしか触っていません。でも自分たちの扱う商品の先にあるものが、未来の子供たちや今の世の中が良い循環で回る可能性を持っているので、それを信じて色々と提案している感じです。

吉村私も業務としては販売促進なのでデスクワークがメインです。でも取材で農家さんのところに行ったり、畑を見させてもらったりする機会は多いです。それから、普段食べるものは自然栽培のお米とか野菜ですね。あ、それは尹もそうですよ! なので、普段の私たちがしている業務からすると、私たちはもう八百屋とはまた異なるところにいるのかもしれないのですが、その表現する文章だったり、扱っている写真だったり、デザインするものがやっぱり野菜なので、逆にそれをやっているおかげで「ああ、八百屋だな」っていうのを実感するというか。

女性の生活者の視点がより反映された冊子「TUMUGI」のリニューアル

――「TUMUGI」の話をお聞かせください。1年前に、宅配サービス会員向けの冊子「TUMUGI」が新しくなりましたが、この経緯について教えてください。それまで白黒だったのがカラーになって、グッと見やすくなったと思います。写真もすごくきれいですね。

新旧 TUMUGI
左:リニューアル前のつむぎ(白黒)  右:リニューアル後のTUMUGI(カラー)

はい。10年前に宅配事業が始まったときから、情報誌はお届けしていました。現在のカラーものではなく、モノクロ印刷のものです。これまでのお客さまからの反応をもとに、よりお役に立てて楽しんでいただける内容を中心に再構成しました。
ようやく人的なリソースが整ったという事情もあるんです。僕自身、自分で勉強してきたことを反映できるレベルに来ていたし、吉村がこの「TUMUGI」に関われるようになったのは大きいです。カラーになる前も吉村にデザインの相談はしていました。もっといいものを発信できないかなって。そのなかで例えばお客さんの興味関心でも、料理が好きな人、農家さんの事情について知りたい人だけではなく、ナチュラルな生活雑貨が好きな人はどうなんだろうとか、アイデアの幅がどんどん広がっていったんです。

TUMUGI 誌面

――やっぱりカラーのほうが野菜の色がきれいですよね。野菜の色とか違いがわかっていいですし。

農作物や味噌に醤油とか、私たちの商材って泥臭いイメージが定着しているからか、白黒で手作り感を感じられる方が好きだった、という声もいただきました。けれども、いくら意外性ある情報でも見にくければ自己満足になってしまいつながりは生じません。ですので、デザイン性を高め、視覚的にも心地よい雑誌にしようと。わかる人だけがわかって、という限られたチャンネルだけではない、手に取りやすく、なによりも「なんか楽しそうだな」ってまずは感じていただけることが大切だとも思いました。

吉村白黒にも良い点・悪い点があると思うのですけど、手作りで写真も白黒だと、すごく興味がある人とか気合入れて読むぞ、ってならないと読むのが大変な人もいるんじゃないかと思ったんですよね。扱っている商品の特性上、健康について心配されている方に選んでいただくことも多いのですが、ちょっと興味があるとか、ちょっとお子様にいいものを食べさせてあげたい、オーガニックって言葉は知っているけど具体的に何のことだろう、という方に対しても発信したかったんです。

私たちが扱っている「自然栽培」というのは、業界でも特殊で、無農薬で無肥料にこだわる理由も説明しすぎると長くなってしまいますし、その説明を最後まで聞いて完璧に理解してくださる方だけに買っていただければいいとは、私自身は思えなくて。
どうしてかというと、私はプランツという、今は横浜にあるお店が移転する前の江田にあった頃からのお客だったんです。そこで私は何も知らずに買い物しに来ていて、自然栽培の意味を知らずに入社したようなものなんですね、最初は。言葉として聞いて「ああ、そういうものを扱っているんだ」という程度。実際、食べておいしいなとは思ったんですけど、どう良いのかとか、自分自身が飲み込んで本当に腑に落ちるまではやっぱり時間がかかったんですよ。だからまずは間口を広くとって、それできれいなもので「なんかいいな」、「かわいいな」とか「すてきだな」って思えるところから入ってもらってもいいんじゃないかという意味で、見やすさは大事だと思っています。

TUMUGI 表紙

――さっき見せていただいたときすごく美味しそうだなと思ったのが、湯気が見えるんですよね。あとテーブルの使っている感じとか、食卓が温かい感じがするんですよね。なので、無農薬野菜に関心のない方でも、これを見たらいいなと思って、中を読みたくなるような。カラーだからこそ見える湯気ですよね。
女性の生活者としての感覚がいい形で反映されて、間口を広げられる「TUMUGI」にリニューアルできたのは大きな意味があると思いました。

会員への情報発信だけでなく、新しいお客様に興味を持っていただくきっかけ作りにも

――冊子の目的はどのように位置づけていますか?

田辺共感でしょうか。僕らにはもともと、あからさまにコアなメッセージがあるのですけれど、事業を進める中でいろんな人が関わってきて、いろんなチャネルでいろんなレベルで共感を生んでいる。「TUMUGI」はいいタイミングもあって、それを二人にやってもらいたかったというのはありますね。

楽しそうだな、おいしそうだな、と思っていただけることがいちばん最初のステップですね。実際に食べるというときも、生産者さんの哲学や思想や情熱、野菜や米が持っている個性、自然の神秘などを経て生まれてきたものであることを知っているほうが、楽しさやおいしさが増すと思います。 同時に、ただ楽しいだけで終わる雑誌にはしたくないと僕は考えています。地味で即効性はないけれども数年読み進めるうちに「あれ、なんか自然について考えて、自分の頭で考えつつ暮らしに応用するようになったぞ」となっていただけたら嬉しいです。自分らしく楽しく生きる人が増えると楽しいですしね。

吉村弊社がお客様に商品販売をする方法として、宅配であったり直営店であったりするんですけど、少しずつ認知していただいて、外部に商品を置かしていただくことも増えてきているんですが、商品の値段がやっぱり高いんですね。他の自然食品店さんよりも。
それで、美味しいけどやっぱり高いから続かないなって一度でも思われたら持続性に欠けます。商品をそのままポンって置くだけで理解して購入していただくのは難しいので、私たちが普段農家さんのところに行って聞かせていただくお話を、お客様にそのままお伝えしたい。そのためにこういう媒体が必要なのではないかと思います。

――お話をうかがっていると、会員様向けに届ける以外にも、もっと広がりのあるものになるのでは?

田辺ええ。今までは会員様だけだったのですが、読みやすい書き方で、きれいなものを作るということをすごく意識してくれているので、会員様以外の方々の手から手に渡っていくようなことを願って、テスト的に直営店で配ることをしはじめています。

――なるほど。会員様向けの雑誌だったのが、刷新することで新しいお客様に興味を持っていただく、吉村さんがおっしゃられたように、美味しいけど高い、その経緯を知っていただくきっかけとしての活用のシーンが広がってきているのは面白いですね。

ただ、すごい抽象的でわかりにくいんですよ、内容が(笑)。自分で書いてて言うのもあれなんですけど、何言ってるんだ自分は、 と思うことはあります。読んで納得いただけるよう、書き方を工夫していますが、一方で読んでいただく方には疑ってほしいんですよね。「この会社の言っていることは本当なのかな」って。
自分なりに自分の周りにあるものの本質を問い詰めていって、自分自身にあった人生をオーダーメイドすれば、みんなそれぞれ楽しくなるんじゃないかなと思っています。にんじんはにんじんだし、大根は大根、ありんこはありんこ、せみはせみの生き方で循環しているのがあるべき姿だと思うので、そんなお手伝いをできる冊子を作っているという感じです。

――読ませていただいていますが、尹さんならではの文章ってありますよね。

自分自身のなかでこれを伝えたいっていうものがあるのですが、手を変え品を変えというか、いろんな言葉を変えてやったりするものの、着地点が同じなので自分に飽き飽きしてくるという苦しみはあります。

――吉村さんにも、そういう苦労はありますか?

吉村私は逆に毎回取材先が違いますし、写真も必ず違いますし。楽しくやっています(笑)。でも、物を書くことに関しては全員初めての方ばかりだったので、書くのには苦労していると思います。

TUMUGI 誌面2

コンテンツを生み出す体制について

――体制について教えてください。何人で、どうやって生み出しているのでしょうか。

編集委員は僕と吉村の二人です。席が隣に並んでいますし、日常の情報共有のなかで、これいいねと思う材料に出会うと、混ぜたり、何したり……と「調理」し直す感じで企画が決まります。だから、今の紙面構成においてはですが、編集会議は特に設けていません。年間での大まかな計画を立てるときぐらいですね。
おもに、僕が取材・執筆・校正・校閲、吉村が撮影全般とレシピ作成と表紙デザイン、一部執筆を担当しています。他にも分野ごとに社内スタッフへ原稿依頼をしていて、戻ってきたものは二人でまとめています。
野菜でも調味料でもお酒でも「旬」があります。農家さんを含めた各職人さんたちから話を聞いて記事に載せるタイミングを考えながら、各号の構成を決めていきます。例えばお米だと9月から11月くらいが新米の収穫の時期なので、お米農家さんをメインで特集しようかだとか。座談会を女性スタッフだけでやる時は、夏だったら日焼け止めの話があったほうが季節感を感じていただけるとか。毎月でなくとも季節ごとに特集を組んで、意外性ある面白さをさらに出していきたいですね。それが今の課題です。

――隣同士の席でお話されながらやっている風景が目に浮かびます。

吉村が1ヶ月半くらい前に異動してきたので、それまで電話で打ち合わせしたり、どこかで会ったりというやりとりだったんですけど、同じ「普通に話す」っていっても隣同士だと話が早いですね。密度も含めて。

――お話をうかがっていると、尹さんと吉村さんのお二人で、考え方はけっこう違うと思うんですけど、喧嘩になったりはしないのですか?

ないですねえ。

田辺まだジャブを打ち合っている段階なのかも?

――吉村さんからはどう見えますか?

吉村やっぱり私は女性なので料理とか洋服とか、衣食住の面ですね。お客様は女性の方が多いですし、尹がどんなに家事をやっていたとしてもわからない部分、理解できないだろう女性特有の部分はあるので、そういうところをキャッチボールするようにしています。逆に、取材先の農家さんは男性の方が多いんですけど、男性視点から話を聞くのがうまいので、そういう意味では、性別が分かれていてよかったなというところはあります。見方がそれぞれ違うので。

TUMUGI 表紙2

――バランスがちゃんととれているんですね。

これも僕の性格なんですけど、例えば忙しくても簡単にできるレシピが欲しいってお客様がいるとするじゃないですか。僕だったら、究極食べなくてもいいんじゃないかとか考えてしまうんですよね。米だけで美味しいんだからそれだけのほうがエコじゃないですかとか変な発想してしまうんですよ。だから、あいまみえないというか、お客様と理解し合えないところもあるのでそれをうまくフォローしてもらっていますね。

――田辺さんに、組織の体制としての側面もお聞きしたいです。以前と比べて何か変わってきていますか?

田辺そうですね。前よりすごく楽になってきたなと思うのは、社内でいいものを知ると、何か感動するじゃないですか。そうすると、みんな能力があるし、自分で発想してどんどんやっていってくれるんですよ。できる人たちだし、スイッチが入っちゃうんだと思うんですね。それだけ自分たちが扱っている素材にも力があるのだと思うんですけど、それがすごく面白いですね。その代わり、向かっている方向性が、みんながワクワクするものではなくなったら、そのスイッチが入らなくなると思うので、会社の方向性を、経営としてやり続けられるような判断をしながら、ちゃんと合わせていくというのは一番大変なこととしてあります。ただそこさえ合っていればもう、うちの場合はみんな合えば合うほど動くというか、それぞれの人の中で勝手にスイッチが入っていくんだと思います。

――社員に勝手にスイッチが入って、自分からはじめ、進めること自体を推奨している?

田辺むしろそうでなければ、うちの会社で働くことが続けられないくらいですね。

――例えば、アイデアを出してもすぐつぶされるとか、指示したことだけをやらせるとか、そういう組織ってあると思うんですけど、そういう環境とは全然違っている?

田辺いい意味でも悪い意味でも真逆ですね。

――やりたいっていう人がやれる。

吉村 「TUMUGI」もそうですね。私たちがやりたいって言って、カラーでやらせてもらえるようになって。

――やりたいって言ってできたものなのですね! どんな感じだったんですか?

田辺やらなきゃ辞めます! みたいな感じで(笑)。それは冗談ですが、こういう風にしていったらいいんじゃないですかって。そういうとき、やっぱり僕だけだったらかたくなってしまうところがあると思うのですが、そうじゃなく、いろいろな提案をみんなでしてくれるので、そういう意味で能力があると思います。

――そういう企業風土からいいカルチャーが生まれて、「TUMUGI」ができているんですね。

短期的な視点で意思決定がなされることがないのはありがたいです。「TUMUGI」をやるときは、桃栗三年柿八年、という言葉を思い浮かべました。蒔いて、じっくり育って芽が出てっていうのが三年以上かかるかもしれないとか。そういう中長期的な視点で計画書を出すことで、やってみたらと了承を得られたので、新しいチャレンジができる環境だと思います。もちろん宅配事業や直営店舗などの本業の商いがあるから、妥協せずいいものを作れる環境があるとも言えますが。

――なるほど。確かに短期的な費用対効果を求める観点からは、冊子に注力するのは難しいかもしれませんね。多くの企業がコンテンツでつまずきがちな点をしなやかにクリアーして先に進まれているのだと思います。
こういうのって享受能力を育てているみたいな感じで、お客様に自然のいいものを教えてあげて「そういうのがいいのか」っていう気持ちを、感覚を育てて、養っていくことで、やっと花が開いたり、実ができたりするものなんですね。理解していただくっていうところをまず学んでいただくというか。少しずつ提供していって、理解していただいて、やっと食べていただけるようになったり。時間がかかりますよね、人を変えたりするのは。

けっこういろんなところでその法則があてはまりますよね。サプリメントや薬を投与すれば効果が早く出てくるとは思うんですけど、対処的な療法にすぎず一過性で終わったり。もちろん意識はしますが、即効性はひとまず置いておいて、じわじわじわじわ、自分で気づいたら、余計なコストもかからずにこういう暮らしができていたとか。

――習慣みたいなものですよね。

コンテンツは「スイッチ」「関係性をつくるもの」「種」

――「TUMUGI」をはじめとする御社のコンテンツを一言で表現すると何になるでしょうか。

田辺まず、スイッチですね。例えば、八百屋さんに「今日これが美味しいよ」って言われて勧められたものをぱっと買うことがあると思うんですけど、「TUMUGI」の場合はこの紙面をきっかけにして、その人のスイッチが入るというか、そういう意味で役に立つものであれば意味があると思います。 売る人のことを信頼していれば、その店のおじちゃんが「これいいよ」って出してくれるものを別に疑わないじゃないですか。言葉だけじゃなくて、この人が親だ、家族で大事な人だっていうみんなのつながりというものを感じられたら、安全・安心という言葉は必要なくて、ただの野菜で充分なはずなんですよ。でも、農薬・・・商売を優先して自分は食べないけど外に販売するものには農薬をかけちゃうというのは、その関係性が途切れているから起こってきてしまうんです。作り手も買い手も同じ気持ちを持っていれば、ずれようがないじゃないですか。自分の子供に虫や草々が朽ちてしまうようないわゆる毒を飲ませるんじゃなく、自分が本当にいいと思うものを与えるだろうし。だからこの関係性を確認していくことがすごく大事だと思うんですけども、そういうことが「TUMUGI」のような媒体でできるといい。作っている農家さんがこんな人なんだって思ったら、それを感じて食べてくださるでしょうし、農家さんも食べている人がこういう風に喜んでくれてるだって思うと、すごくモチベーションになるんですよね。その連鎖を演出していくのが僕ら流通業者の仕事だと思うのです。そういう意味で、コンテンツは「関係性をつくるもの」でもあると思います。

――スイッチを提供し、関係性をつくる。

僕は「」のようなものだと考えています。蒔いたものがいつ芽ぶくかは、人によって違うと思うんです。例えば、20代前半の頃、前職で先輩やお客様からけちょんけちょんに言われるわけです。「お前何やってるんだ」と。でも、今考えてみるともっと怒られるようなチャレンジをしておけばよかったな、と思うことが今になってあります。自分が体験したり実践するようになったとき初めてその意味がわかる、過去にまいた、植えたからこそ、いま果実となってもぎとれる、というようなことは自然の法則でもありますよね。できるかぎり、読者の方々の記憶に定着する深度を高めていきたいと思っています。

――後になってふりかえったときに、やっぱりこれがきっかけだったんだなっていう風に思い出す。そういうコンテンツを作っていきたいということ。これは吉村さんも同じですか?

吉村同じですね。私は会社の食材に興味をもったきっかけが前職で体を壊してからなので、体調が元に戻るまでっていうのが時間もかかりましたし、入院もしたので当然お金もかかりました。例えば風邪引いたとかインフルエンザとか、苦しい思いをして初めて体に悪いことしてたな、不摂生だったなと気づく方が多いと思うんですが、その前にもきっかけはたくさん落ちていると思うんですよね。たくさんの人が病気になる前に、怪我をする前に、痛い思いをする前にナチュラルライフをはじめようと思っていただくきっかけになりたい。そういう意味で同じように「種」と考えています。ちょっと頭のかたすみに残ってもらえればいいので。「そういえばあの時、あの雑誌で書いてたな…」くらいでいいんです。そういうものになってくれたらなと思います。

今後のコンテンツの取り組みについて

――今後どんなコンテンツの取り組みをしていこうと考えているかお聞かせください。

情報媒体としてはまず、子育て層の方に絵本を出したいと思っています。そもそも活字よりもビジュアルのイラストや写真のほうが馴染みやすいとしたら、そこを入口として楽しんでもらえるものにしていきたいですね。それからレシピ集は、興味を持ってもらいやすいだろうと思います。あと、情報というかリアルな現場なんですけど、援農企画を検討しています。一緒に農業しませんかという。

吉村農業のお手伝いが含まれているんですけど、自然栽培を学んでいただける体験ツアーのようなものです。

体験ツアーの様子
体験ツアーの様子

直接自然を感じて、農業やって疲れて、その後で食べると、同じにんじんでも、感情的な意味で、おいしさが違ってくると思うんですよね。それはつながりのパイプが太くなったからこそなので、そういう体験をたくさんの人、特に小さな子どもにしていただけたらうれしいなと思います。
例えばバスでどこかの米農家さんにお邪魔して一緒に収穫をするだけで、やはり一生の思い出になるんじゃないのかなって。それが種になれば、時間はかかってもいろんな形で収穫があると考えているので、とにかく楽しんでもらいたいですね。自然のなかで生きていてつながっているんだという、つながりを身近に感じていただけるコンテンツを作っていきたいです。

――媒体として絵本など紙媒体を挙げていただきましたが、オンラインに展開されるイメージはありますか?

吉村両方活用していくとは思うんですけど、やっぱり「TUMUGI」みたいに冊子でじっくり読んでいただきたいというものもあると思っています。農家さんも1ヶ月おひとり紹介しているんですけど、そうすると1年で12人、米農家さんを入れるとうちの取引農家さんは150から200いらっしゃるんですけど、その人たちをすべて紹介できるまでにスパンもかかりますし、記事に取り上げた農家さんの野菜がタイミングよく入ってきて「この人の野菜だ」って合致する確率は低いんです。けど、もしそれでその人の記事を読んで食べてもらってそれがおいしかったら、より感動してもらえるんじゃないかなと思って。
それと、情報が簡単に手に入りすぎる分、何でもかんでもオンラインに載せればいいというものでもないとは思っています。例えば、弊社の考え方のコアな部分をお伝えするために、代表の河名が全国各地でセミナーを定期的に行っています。コンテンツをWEBに全て出すことで、私たちがお伝いしたいことが100%の温度でご理解いただけるとはなかなか思えないので、じっくり考えながらやっていきたいです。

――デジタル化には慎重な側面がありますよね。

田辺自分たちのそのときできる出し方で出すということで、バランスがとれているということなんでしょうけど。

僕は紙寄りなんですよね。

吉村私たち、そもそも紙寄りなんですよ。

――「TUMUGI」を紙の冊子で読んでいる姿と、同じコンテンツをWEBで読んでいる姿を想像したとき、ナチュラルライフという言葉により近いのは、確かに紙で読んでいる姿かもしれませんね。

吉村例えば私たちがWEB上で「ご飯と味噌汁を毎日食べましょう」という記事を載せたとしますよね。その記事を何も考えないで検索をしてたまたま見つけた人にとっては、「ご飯と味噌汁を食べましょう」って言うのは何か偉そうだなって思われちゃうかもしれません。
でも紙媒体だったら、表紙とかに興味を持って見て、開いて読んでいただくっていうステップが違うので、そういう人たちはなにかしら答えを求めて手にとるっていう行為があると思うから、そうするとスッと入ってくるというか。
ステップが違うので、同じ文章を紙とWEBで載せるにしても、見る人の状態っていうのはかなり違うところにいるはずなので、その辺を考えながら出していきたいと思います。

――ステップがある、というのはすごく面白いですね。WEBではTOPページだけではなく入口がいろんなところにあって、ユーザーの検索意図に応じて異なる入口が用意されている。でも、本当にその人が必要としている情報だけ、いいところだけ切り取ってみせていると伝わらない部分があるんじゃないか、っていうことですよね。

紙媒体にはアナログならではの温かみがあると思います。アナログな商材を扱う僕らの業界さえでも、WEBの方がむしろ競争が激しくなってきて、いわゆるレッドオーシャンになりつつあるとも思うんですよ。その点、「TUMUGI」みたいな紙媒体の冊子を通じて伝えていくことは、今の「主流」としては必ずしもそぐわないかもしれません。でも裏を返せば、競合がいないブルーオーシャンの領域になるんじゃないかとも考えたりします。特に「TUMUGI」がそれを狙って作っているんだってことはないですけど、ブルーオーシャンはどこだというのは、ずっと考えています。

――なるほど。最後にこれからコンテンツを取り入れていきたいと思っている企業の方はたくさんいらっしゃいます。そういう企業の方に一言お願いします。

田辺企業の方に対して、私たちから何も言えるようなことは…。

言葉にしようとすると、お客さんありきで考えるとか、嘘をつかないだとか、正直であれとか、そういう感じになるのでしょうか。田辺から本来の八百屋としてちゃんとやる、という話がありましたが、原点に戻って、あたりまえのことをやっていったら、自然によくなっていくんじゃないかと思います。

吉村ストレスなく仕事させていただくことができて、幸せだなと思います。そういう環境を自分たちでも作ることは大事なのかなと思います。

――ありがとうございました!

<取材を終えて>

原点の八百屋としてのあり方を大切にしながら宅配事業はじめ店舗やWEBショップ、レストランなど、広くナチュラルライフを提供・提供する企業として成長中のナチュラル・ハーモニー。同社は今、未来のお客様とのつながりを築くことを目指し、種をまくようにコンテンツを発信している。紙媒体に軸足を置く姿勢や、やりたい人がやれるスイッチの入りやすい企業風土も、短期ではなく長期を見据えているからこその選択かもしれない。改めて、語ることを豊富に持つ企業は強いと実感した取材だった。