
2025年9月29日、OpenAI は ChatGPT 内の新しいショッピング機能 「Agentic Ecommerce(エージェント型コマース)」を発表しました 。 主な発表は Instant Checkout (インスタントチェックアウト)と、それに関連する「Agentic Commerce Protocol (ACP)」に焦点が当てられました。同時に OpenAI は、ChatGPT用に設計された商品フィードの仕様を公開し、ショッピング検索に関するさまざまなドキュメントを更新しました。
公開されている情報を確認し、これらの新機能の仕組みと、それがオンライン販売事業者(これからEC事業者)やChatGPT ユーザーにとってどのような意味を持つのかに焦点を当てて現状を解説します。
- インスタントチェックアウトと「Agentic Commerce Protocol」
- ChatGPT検索でのショッピング体験
- ChatGPTによるEC事業者の選定と順位付け
- 新しいChatGPT専用商品フィード
- まとめと今後の対策
- リンク集
インスタントチェックアウトと「Agentic Commerce Protocol」
インスタントチェックアウトを使うとユーザーは ChatGPT で見つけた商品をチャットを離れることなく購入できます。商品がインスタントチェックアウトに対応している場合、ユーザーは「購入」をタップし、配送先と支払い情報を確認するだけで、注文は安全にEC事業者へ送信されます。
重要: ChatGPT の役割はあくまでチェックアウトと支払いを仲介することに限られます。商品の発送、返品対応、そして顧客との関係は引き続き EC事業者が担います。
提供状況
- 地域:現在は米国のみ(2026年に他国への拡大を予定)
- 対象となるECプラットフォーム:
インスタントチェックアウトの仕組み
- ユーザーがChatGPTにショッピング/商品購入に関する質問をする
- ChatGPT がウェブ全体から最も関連度の高い商品のリストを提示する(オーガニック)
- ユーザーが商品を選択する
- ChatGPTがその商品を販売しているEC事業者の一覧を提示する
- ユーザーが購入先となるEC事業者を選択する
▶ インスタントチェックアウト対応の場合:ユーザーはChatGPTを離れずに支払いを行い、購入を完了できる
▶非対応の場合:ChatGPTはEC事業者の公式サイト上の商品ページへのリンクを提供

追加の情報
- 商品を提供するEC事業者の一覧では、どの事業者がインスタントチェックアウトに対応しているかが表示される。
- インスタントチェックアウトに対応しているEC事業者は、一覧内でランキングブーストを受ける。このランキング要素は事業者リスト内の表示順位みに影響するのみで、どの商品が推奨されるかには関係しない。
- インスタントチェックアウトはユーザーにとって無料だが、成功した購入に対してはEC事業者に「少額」の手数料が課される(必ずしも手数料がかかるわけではないようです。条件や金額は未公開)。
- OpenAIは、自らがEC事業者ではなく、またEC事業者に代わる存在でもないことを強調している。購入はあくまでユーザーとEC事業者の間で完結する。
ウェブサイトでインスタントチェックアウトを有効化する方法
他のウェブサイトでインスタントチェックアウトを有効化するには、「Agentic Commerce Protocol」の統合と、OpenAI の承認が必要となる。 テクニカル統合は、開発者が実装するタスクで、3つのフローを含む:
- 商品フィード:構造化された商品データの提供
- 注文とチェックアウト:ACP APIとウェブフックを構築し、注文を管理
- 決済:「Delegated Payment Spec」を用いて適合する決済プロバイダーを統合
技術ドキュメント:

ChatGPT検索でのショッピング体験
OpenAI は、ChatGPT がユーザーとのチャット内でどのように商品を見つけて提示するか に関するドキュメントを更新しました。
ChatGPTがユーザーのクエリから購買意図を感知した場合、カルーセル形式で商品一覧を表示することができます。このカルーセルには、商品画像、詳細情報、そしてEC事業者へのリンクが含まれます。

ユーザーの購買意図を判断する仕組み
ユーザーからのクエリが購買意図であるかを判断するために、ChatGPT は以下を参照します:
- ユーザーのクエリ内容
- 会話のコンテキスト(以下を含む)
- 過去のやり取り(メモリ)
- 設定されているカスタムインストラクション
商品表示とランキングに使用されるデータ
- 価格や商品説明といった一次提供者からの構造化メタデータ(ChatGPT に直接提供されたデータやフィード)
- 以下を含む、第三者提供者からのコンテンツまたは構造化メタデータ(詳細はこちら)
- Bingからの情報(Microsoft Ads に登録された商品フィードも含む可能性が大きい)
- Shopify からの情報(商品詳細、説明、価格といった構造化データ)
- モデルにあらかじめ組み込まれている静的情報
ChatGPT には、最新の検索結果を考慮する前に、すでにモデル内に存在する応答が評価されます。つまり、モデルに組み込まれている静的な情報がまず参照されます。
補足: この静的情報は外部から容易に操作できるものではないが、長い運営歴や豊富なオンラインコンテンツを持つ EC 事業者にとっては有利に働く可能性があります。 - OpenAIの安全基準および商品ポリシー
OpenAI は、商品結果が ChatGPT によって独立して選ばれるオーガニックな結果 であることを強調しています。これらは広告ではなく、また第三者との提携によって影響を受けるものでもありません。さらに、インスタントチェックアウトの有無によって結果が左右されることもありません。
しかし、OpenAI が広告システム設計の経験を持つ人材を採用し始めており、自社の有料マーケティングプラットフォームを構築しようとしていることもわかっています。そのため、上記の方針は将来的に変わる可能性が十分あります。
抽出された商品情報に基づき、ChatGPT は商品画像、テキスト、ラベル、価格を含むカルーセル形式で商品を表示します。
商品を表示する際、ChatGPTは商品データやレビューを含む第三者提供元の情報を用いて、以下のような情報を生成することもできます:
- 簡潔化された商品タイトルや説明文
- 「低価格」や「人気商品」といった商品画像上のラベル
- 商品レビューの要約
▶️ EC事業者が押さえておきたい点
- ChatGPTは現在、ShopifyやBing からの第三者データに依存しています。ChatGPT にデータを提供するだけの目的でShopifyストアを開設するのは合理的ではありませんが、Bing用に商品フィードをアップロードすることは有益かもしれません。これはMicrosoft広告を通じて無料で行うことができ、広告を実際に配信する必要はありません。
- ChatGPTは商品の理解を深め、情報を補強するためにレビューにも依存しています。このため EC事業者は、ChatGPTのクローラーがアクセス可能な形で顧客レビューなどのデータをオンラインに公開するようにする必要があります。
ChatGPT によるEC事業者の選定と順位付け
ユーザーがChatGPTのショッピングカルーセルで商品をクリックすると、その商品を提供するEC事業者の一覧が表示されます(必ずしも常にEC事業者のリストが表示されるわけではありません)。
どのEC事業者が、どのような順番で表示されるのか。これは、信頼性と利便性を求めるユーザーにとって重要です。同様に、表示機会と売上を伸ばしたいEC事業者にとっても見逃せないポイントとなります。OpenAIは、この事業者の選定と並び順の仕組みについて、初期的な情報を公開しています 。

ChatGPTがEC事業者を選定・順位付けする基準
表示されるEC事業者は、サードパーティプロバイダーから提供されるメタデータや、事業者自身が直接提供する商品・事業者データに基づいて選定されます。そのうえで、以下の要素をもとに順位付けされ、並べ替えられます:
- 在庫状況、価格、品質
- プライマリ販売者ステータス(製造・一次販売を行うEC事業者が優先される)
- インスタントチェックアウトの有無(対応しているEC事業者が優先される)
なお、最安値の商品を扱うEC事業者が必ずしも最上位に表示されるとは限りませんが、「ベストプライス」ラベルが付与される場合があります。
また、このランキング基準は今後さらに多様化し、ユーザーごとのカスタマイズが進むことが予想されます。
▶️ EC事業者が押さえておきたい点
- インスタントチェックアウトの有無は、明確にランキング要素として扱われます。最終的な実装でどの程度影響を持つかはまだ不明ですが、この優先度の高さから、インスタントチェックアウトの導入は重要になると考えられます。特にShopifyやEtsyの事業者は、初期段階で表示上の優位性を得られる可能性があります。
- EC事業者がその商品を製造しているか、または一次販売者であるかどうかもランキング要素となります。これは公式ブランドショップに有利に働きますが、残念ながら小規模な小売事業者にとっては有利なことではありません。
- 低価格を提示することは一定の意味を持ちますが、どのEC事業者が最初に表示されるかを決める決定的な要素ではありません。
新しいChatGPT専用商品フィード
OpenAIは、専用の商品フィードを利用してChatGPTに商品データを直接連携するための技術仕様を公開しました。このプログラムは現時点では限定的に運用されており、誰でも利用できるわけではありません。参加を希望する事業者はマーチャントページから申請を行う必要があり、申請内容はケースごとに審査・承認されます。なお、米国外からの申請が現時点で受理されるかどうかについては明らかにされていません。
商品フィードに不慣れな方には、すべての商品とその関連情報が整理された大きな表をイメージすると分かりやすいでしょう。各行が1つの商品データを表し、各列には商品ID、タイトル、在庫状況、価格などの商品属性が整理されます。
商品フィードの基本仕様
要件は従来のフィード仕様と大きく変わりません。ファイル形式はTSV、CSV、XML、JSONに対応しており、暗号化されたHTTPS経由で共有する必要があります(ただし具体的な共有方法は明示されていません)。
システムは最短15分間隔で更新を受け付けており、OpenAIはユーザーに正確な検索結果を提供するために、データの最新性が重要であると強調しています。
ChatGPT商品フィードの商品属性
商品フィードは、各商品の属性情報で構成されています。これらの属性によって、ChatGPT は各アイテムの詳細情報を把握できます。
OpenAI の仕様には、すでに多数の属性が目的ごとに分類されており、それぞれの属性は、必須・推奨・任意のいずれかとして指定されます。
フィード仕様では現在、56種類の属性 が定義されており、11カテゴリー に分類されています:
- OpenAIフラグ
商品をChatGPT内で検索可能にするか、購入可能にするかを制御します。
例:[enable_search]:検索結果に商品を表示、 [enable_checkout]:ChatGPT内での直接購入を有効化 - 基本商品データ
商品を識別・表示するために必須となるコア属性:ID、タイトル、商品説明。
注:商品説明は特に重要で、LLMシステムが商品の文脈や用途を理解するための情報を提供します。 - 商品情報
商品リストを充実させる追加情報。 - メディア
商品画像、追加画像、動画や3Dモデルのサポート。 - 価格とプロモーション
価格の詳細およびプロモーション情報。 - 在庫・入荷状況
在庫状況や在庫数。 - バリエーション
サイズやカラーなどの属性。ユーザーのニーズに応じて適切な商品バージョンを提示するために利用されます。 - フルフィルメント
商品の配送・出荷に関する情報。 - 事業者情報
販売者に関する詳細。 - 返品・返金
返品および返金ポリシー。 - パフォーマンス指標
商品をランキングまたはハイライト表示する際に品質シグナルを提供する指標。例:
[popularity_score]:商品レビュー数、 [return_rate]:レビューや取引に基づく返品率 - コンプライアンス
規制上の警告、免責事項、年齢制限など。 - レビューとQ&A
商品の理解を補強するレビューやQ&Aデータ。例:
[q_and_a]:よくある質問と回答のテキスト【推奨属性】、 [raw_review_data]:レビューデータの本文【推奨属性】 - 関連商品
一緒に購入されやすい商品や代替商品。例:
[related_product_id]:関連商品のID一覧 - ジオデータ
地理的な提供範囲やターゲティングデータ。
商品フィード仕様のリリースは、これが最初の段階です。OpenAIはすでに幅広い商品属性を仕様に含めていますが、今後システムのテストと改善が進むにつれて、これらは進化していくことが予想されます。EC事業者は、ランキング要因や利用可能な属性の変更に対応できるよう、常に更新を監視し、自社のフィードを調整する必要があります。
.
▶️ EC事業者が押さえておきたい点
- パーソナライゼーションはChatGPTの中核的な特徴であり、またシステムは各ユーザーに合わせた回答を生成するためにデータに依存しています。そのため、商品フィードには可能な限り多くの関連属性と各商品のユニークな情報を含めることが重要です。
- ChatGPTは、単なるデータではなく、テキストの文脈からユーザーに最適な商品を判断するLLMです。そのため、従来のデータ中心のフィードとは異なり、モデルに追加の判断材料を与えるテキスト属性が極めて重要になります。特に、詳細な商品説明、実際の利用者の声がわかるレビュー、疑問を解消するQ&Aなどが、ChatGPTの提案精度を大きく左右するでしょう。
- ChatGPTがユーザーに最適な商品を提示するためには、サイズやカラーなどのバリエーション情報が欠かせません。バリエーションデータが正しく提供されていれば、ユーザーごとのニーズに応じて自動的に適切な商品バージョンを選び出すことが可能になります。従来型のフィード以上に、この情報が大きな影響を持つと考えられます。
まとめと今後の対策
ChatGPTにおけるエージェント型コマースや新しい検索ショッピング機能は、まだ初期段階にありますが、EC事業者はすでに準備を始めることができます。
ChatGPTは現在、商品や事業者を理解するために外部データに大きく依存しており、その「量」と「質」が重要になります。
そのため、現時点でもっとも実用的な対応はコンテンツ品質に注力することです。具体的には、商品説明を詳細に整備し、レビューを公開してクローラブルにし、商品情報を明確に構造化することが求められます。さらに、Microsoft広告に商品フィードをアップロードすることで、Bingデータに大きく依存するChatGPTにおいてインデックスされる可能性を高めることができるでしょう。
エージェント型コマースに関しては、ユーザーが実際にChatGPT内で購入を完了するかどうかが採用のカギとなります。どの程度利用されるかはまだ不透明ですが、今のうちにドキュメントを確認し、利用可能になった際に有効化できるよう備えておくのが賢明です。Shopifyはすでに直接統合を提供しており、今後は他のプラットフォームも独自の実装で追随する可能性が高いと考えられます。
ChatGPTの商品フィードについては、現時点ではまだ初期リリース段階にあり、機能も広く公開されていません。しかし、スタート時から高品質な商品フィードを準備しておくことが重要だと考えます。フィードに含まれる一部の属性(たとえばQ&A情報)の実装は難しい可能性がありますので、早めに準備を始めることが望ましいでしょう。
結論として、商品データの品質を早い段階から高め、リッチなテキスト情報を整備し、技術的な対応を進めておくEC事業者が、ChatGPTのショッピング機能拡大に伴って最大の恩恵を受けることになるでしょう。
リンク集
- 発表: ChatGPTで商品を購入:インスタントチェックアウトとエージェント型コマースプロトコル
- リリースノート: インスタントチェックアウトとエージェント型コマースプロトコルの導入について
- マーチャント(EC事業者)ページ: インスタントチェックアウトとフィードのアップロード
- ヘルプ: ChatGPT検索でのショッピング
- ヘルプ: インスタントチェックアウト:ChatGPT経由で事業者から直接購入
- ヘルプ: ChatGPT検索
- 開発者向けドキュメント: エージェント型コマース ホーム
- 開発者向けドキュメント: 商品フィードの仕様

日本企業でのインハウスマーケティング担当を経て、4年間、運用型広告代理店でユニット長を務める。Google広告とMeta広告が得意で、ショッピング広告、商品フィード作成、テクニカルマーケティングなどを中心に、データを活用した戦略的な広告運用を行ってきた。
4ヶ国語を操り、国際的な視点での広告運用を強みとしています。
2024年には、イタリア・ボローニャで開催されたヨーロッパ最大級のPPC専門イベント「Adworld Experience」にメインスピーカーとして登壇。TwitterやLinkedInを通じてウェブマーケティング業界のコミュニティ活動にも積極的に参加し、2025年にはPPCsurveyの「最も影響力のあるPPCエキスパートトップ100」に選出。
趣味は読書(とオーディオブック)で、ジャンルはサイエンスフィクションとノンフィクションが中心です。