
インターネットが今ほど商取引の中心になる前、広告の成果を1対1で測ることなんてできなかった。Googleアナリティクスもなかったし、ターゲティング広告も今ほど洗練されていなかったし、「マイクロインフルエンサー」なんて言葉も存在しなかった。
とはいえ、それほど昔の話じゃない。でもデジタルマーケティングの世界では、ローアーファネル(コンバージョン直前の施策)にどっぷりハマるのが普通だった。広告費を投じて、どれだけの売上につながったかが分かるなら、そっちに予算を集中させるのは当然の流れだった。Google広告のようなプラットフォームが、広告の表示回数、クリック数、収益を明確に結びつけられる時代は、それで問題なかった。
でも、環境は変わった。消費者の行動は予測しづらくなり、プライバシーの規制も強まり、AIが購買プロセスの至るところに関与するようになった。結果として、今までのように「広告費の○%がこの売上に貢献した」とは言い切れなくなり、マーケターは別の選択肢を考える必要に迫られている。
予算が再びアッパーファネルへ
eMarketerの調査によると、企業の広告予算がアッパーファネル(認知・興味喚起)向けにシフトしていることが分かった。
YouTube、Facebook、LinkedInといったソーシャルメディアは、昔からトップ・オブ・ファネル施策でよく使われていたが、最近はその流れが加速している。直感的にそう感じていた人もいるかもしれないが、改めてデータで裏付けられた形だ。

インフルエンサーマーケティングやコンテンツクリエイターも、もはや「あると良いもの」ではなく、企業にとって「なくてはならないもの」になりつつある。米国では、2025年のインフルエンサーマーケティング市場が14.2%成長すると予測されているし、日本でもファッション、飲食、美容といった業界では、インフルエンサーがマーケティングの中心になりつつある。
トップ・オブ・ファネルが注目される理由
最近の変化の大きな要因は、マイクロインフルエンサーやニッチなコミュニティの台頭だろう。従来、ECは検索広告(PPC)、アフィリエイト、メールマーケティングなど、比較的成果を測りやすいローアーファネル施策に依存していた。しかし、消費者の行動が変わり、購買の意思決定が複雑になった今、ブランドは認知やエンゲージメントを高める施策にも投資するようになっている。
特にB2Bでは、LinkedIn、YouTube、TikTok、X、デジタルOOH(アウトオブホーム広告)、コネクテッドTVといったプラットフォームが重要になっている。ただ、国ごとの違いもある。例えば、LinkedInは米国、インド、ヨーロッパでは強力なB2Bマーケティングツールだが、日本ではまだ発展途上という印象がある。
バランスの取れたアプローチを
「じゃあ、これからはアッパーファネル一択で!」という話ではない。
ソーシャルメディア広告、コネクテッドTV、デジタルOOHなどの施策は確かに有効だが、どんなマーケティング施策も、バランスが大事だ。アッパーファネル広告は、一定の投資が必要になるし、大手ブランドはブランド認知を最大化するために、1日1万ドル(約150万円)以上を使うこともある。慎重に計画しないと、予算の大半をここで消費してしまうリスクもある。
その一方で、最近はAIによる広告運用の進化が、キャンペーンの管理を劇的に効率化している。GoogleのGoogle’s Performance MaxやMeta’s Advantage+のようなツールは、これまでよりも少ない労力で多様な施策を実行できるようになっている。
まとめ
2025年、アッパーファネルマーケティングは再び重要性を増している。消費者の行動がより複雑になり、従来のローアーファネル施策だけではカバーしきれない部分が出てきているからだ。
ただ、マーケティングの世界に「これさえやれば正解」というものはない。アッパーファネル施策に投資するにしても、適切なバランスを取りながら進めることが重要だ。

(グローバル)