入札やターゲットではなく「クリエイティブ」をはぐくむ広告運用 ~私のFacebook&Instagram広告運用
2020年11月12日
ライター:粂野 三佳
SEM

アユダンテ広告チームでは毎週月曜日に朝ミーティングを行っています。この時間に毎回、30分ほどの勉強会が開催されています。広告チーム以外の方を招くことが多く、有料セミナーのような濃い内容のお話が聞ける貴重な時間です。広告領域だけにとどまらない知識や考えを得られるアユダンテならではの勉強会で、社内のメンバーなら誰でも気軽に参加できるのも魅力です。

先日、この朝ミーティングの勉強会でお話をする機会がありました。Facebookで配信する広告の私流のつくり方をお伝えしました。今回のコラムはその内容を再考し、一部を抜粋したものです。

Facebook・Instagram広告とレスポンシブディスプレイ広告の違い

みなさんはFacebook、InstagramやTwitterなどSNSを活用されていますか?
今、FacebookやInstagramで広告を見かけない日はありません。見るだけでなく出す側でもある私ですが、先日、クライアントへの広告提案の際にFacebook・Instagram広告とGoogle広告とでは異なる感覚で広告作成をしていることに気づきました。そこで、広告を作成するときに考えていることを書き出してみました。

Facebook・Instagram広告とGoogle広告を考えるときの考え方

これを見ると私の考え方は、Facebook・Instagram広告では視覚的にどう見えるかに重きを置くのに対して、Google広告では画像への注力度が低く(本当はもっと注力すべきなのでしょう)、ターゲティングやテキストに重きを置く点に違いがあるようでした。

Googleでの広告作成はレスポンシブタイプの広告特性のためにこのような考え方になりやすいと思われます。レスポンシブディスプレイ広告では画像やテキストの組み合わせを媒体に任せる必要があり、テキストだけの表示パターンもあります。レスポンシブ検索広告では見出しの組み合わせや順番を決めることはできません。ひとつの広告を作り込む、というよりは小さなパーツを集めるように広告を考えていることがわかりました。
レスポンシブタイプの広告では、評価においても曖昧な点が多くあります。レスポンシブディスプレイの場合、それぞれのアセットの評価は確認ができますが、あくまでパーツ単体での評価です。どの画像とテキストの組み合わせがよかったのか、「最良」となるにはどのような条件が必要なのか、そもそもすべてのアセットが「最良」となることはあり得るのか、など広告運用に携わる者にとっては、すっきりとしない評価指標なのです。

一方でFacebook・Instagram広告では画像やテキスト、ランディングページまでを鑑み、ひとつの広告からランディングページまでを「ひとつのまとまり」として作り込むイメージで広告を考えていました。個人的には後者が好きなので、Facebook・Instagram広告に魅力を感じます。「何(訴求)をどう見せるか」の要素ひとつひとつに意図をもたせ、仮説に基づいた検証を繰り返すことによって、何をどう見せればユーザーに届きやすいのかが浮き彫りになってきます。ユーザーに受け入れられる広告が見つかったときには、嬉しさもひとしおです。

さらに、魅力を感じる点としてInstagramのショッピング機能の向上があります。広告で活用できるものはまだ少ないですが、オーガニック投稿ではショップへの誘導ができたり、IGTVで商品を紹介したり、Instagram上で商品を選択し、購入できるきっかけが増えています。ショップを作り込めば商品の魅力やブランドの世界観も伝えられます。直接店舗へ行く機会の減少によって、店舗での購入体験の代わりになっているのでしょう。ユーザーは広告かオーガニックかを問わず、魅力的なオファーに対してはその場でアクションする意思が十分にある状態でフィードを見ていると私は考えています。むしろ購入すべきものを探しているのかもしれません。広告配信の結果を見てもCVRが高く、ターゲティング精度が高いことがうかがえます。オーディエンスネットワークネットワークに配信された場合はその限りではありませんが、フィードへの配信をメインと考えると、Facebook・Instagram広告はダイレクトに購入などのアクションを起こしてもらいやすい媒体と言えます。

では、広告でアクションを起こしてもらうためにはどうしたらよいのでしょうか。
そこで私が大切にしているのが「ベネフィット」です。

ベネフィットを引き出す魔法のことば

ユーザーにダイレクトアクションを起こしてもらうために必要なことは、ユーザーにとって魅力的なオファーを提案することです。ここで重要なのはオファーが「ユーザーにとって魅力的か」どうかです。プロダクトの新機能をアピールしたり、他のサービスにはない内容を伝えたりすることは大切ですが、ユーザーが知りたいことは「その機能、サービスを使うことでどんな明るい未来を得られるのか」だと私は考えています。
「ユーザーにとって魅力的なオファー」に近づくために、私がふだん活用している方法をご紹介します。

<魅力的なオファーに近づくプロセス>

  1. 商品やサービスの特徴、機能などを抜き出す
  2. 1で挙げた特徴などが持つメリット(特徴や機能の利点)を書き出す
  3. メリットによって人にもたらされる価値(ベネフィット)を考える

「特徴・機能」とはその商品やサービスの持っている働き、役割のことです。
「メリット」とは特徴や機能の持つ良い点、利点のことです。
「ベネフィット」とはメリットから得られる利用者にとっての価値、得られるもののことです。
ユーザーにとっての魅力的なオファーは「ベネフィット」である必要があります。よく使われる言葉ですが、メリットと混同されることも多いので注意が必要です。ユーザーにとってのベネフィットは「理想の未来」「問題の解消」「よい変化」だと考えます。

具体的に架空の商材で考えてみましょう。

架空商材例
ここでは架空商材として「ワイヤレスイヤホン」を取り上げます。商品名や価格などは実在のものとは関係ありません。特徴は以下のとおりです。

架空商材 スペック

先ほどの「魅力的なオファーに近づくプロセス」にそって、特徴からいくつかベネフィットを書き出してみました。

架空商材の特徴、メリット、ベネフィット

例として、特徴の「カラー全10色」を見てみましょう。
この特徴のメリットはカラーが豊富で選択肢が多いことです。自分好みのカラーを選ぶことができます。私はこのメリットから「ファッションに合わせてコーディネートできる」というベネフィットを考えました。これは「アクセサリーとして使える」とも言えます。ガジェットとしてイヤホンを位置づけるのではなく、アクセサリーとして使えることを広告で訴求することによって、ファッションに敏感な若者、ワイヤレスイヤホンの機械的な見た目に不満を感じている人たちに響く可能性があります。
ひとつの特徴やメリットから引き出せるベネフィットはひとつではありません。書き出したベネフィットがしっくりこないこともあります。

そんなときに活躍することばがあります。
「だから、何?」です。
書き出した内容に「だから、何?」と、問いかけてみてください。問いの答えを探すことで思考を深めることができる魔法のことばです。行き詰まったときには魔法のことばをつぶやいてみましょう。きっとよい答えを自分自身で見つけることができるはずです。

自分の推しは特徴自分の推しはメリット勝利のベネフィット

広告ではこのベネフィットを活用して、ユーザーにアピールすることが重要です。特にFacebook・Instagram広告はこのベネフィットをどのような画像、テキストで表現するかを考え、仮説検証を繰り返していくことが運用業務の大部分を占めます。

私はこのように広告運用を行うことを「クリエイティブを運用する」と表現しています。

「クリエイティブ」の運用方法と期待できる効果

インターネットの広告配信において媒体の機械学習機能は向上し、広告そのものが成果に与える影響は大きく、より重要になりました。どの媒体でもその傾向は変わらないと思います。Google広告でも多数のKW登録、さまざまなマッチタイプ設定をすることはなくなりました。設定されている広告に含まれる文字列の重要度のほうが高くなっています。Googleのディスプレイレスポンシブ広告でもアセットの中から、ユーザーに最も合うものがシステムによって判断され、選定されます。広告運用は入札調整やKW選定、ターゲティング選定や調整ではなく、広告(そこに含まれる要素)を運用していくと言えます。

その中でもFacebook・Instagram広告においては特に広告の重要性が高いと感じています。広告とは「誰に何をどう見せるか」ですが、「誰に」の部分は自動化に任せ「何をどのように見せるか」の部分を深く考えます。画像、テキスト、内容、ランディングページすべてをひとつのデザインとして広く捉えることが大切です。ユーザーは直感的に好きか嫌いか、手を止めるかスルーするかを判断しているので、広告全体から受ける印象の重要度が高いのです。
広告全体とは、そこに含まれる要素(テキスト、画像、ロゴ、CTAボタンからランディングページまで)すべてを含む広範囲に及ぶものです。ユーザーの目に触れる、体験する広告全体のことを「クリエイティブ」と定義します。クリエイティブに含める要素がベネフィットを表現するのに適しているかを考えながら広告を作成します。要素の選択意図を明確化し、配信、結果検証を繰り返し、運用の成果改善を継続的に行っていきます。

この運用手法は、製造業で言うリーン生産方式、起業で言うLean Startupの考え方と似ています。「無駄を無くす」意味合いは薄れますが、「学びを活かしてより早く成長できるサイクルを回していく」ところに共通点があります。下記はクリエイティブの運用方法を図式化したものです。

クリエイティブの運用方法

広告配信においては、すでに広告主が一定の顧客データや顧客へのアンケート結果、販売データなどの情報を持っている場合があります。また、個人向け商品やサービスの場合は自分自身で一度利用してみることもできます。また、インターネットを使い、口コミや競合調査などを行うことも可能です。それらの情報やリサーチから仮説を立て、ユーザーに伝えること、訴求軸を決めます。それに合わせて広告に含める画像やコピー、説明文、ランディングページなどの要素を選定します。広告の配信とともにデータを計測し、結果を分析します。分析結果から広告に含めた要素のどれがどのように良かったのか、明確にしていきます。そこから得られたインサイトを活かして新しい広告を作成します。このループを何度も繰り返します。これがクリエイティブを運用することだと考えています。

クリエイティブを運用するメリットは、検証軸や要素選定の意図を明確にすることで根拠をもった比較検証が行えることです。これにより再現性を高めることができるので継続的な改善につなげることができます。また、これまで気がついていなかった商品やサービスの強みの発見につながることもあります。このような気付きは広告外領域、例えばランディングページ以外のウェブサイト改善、商品開発などにも活かすことが可能です。広告の成果改善だけではなく、企業貢献にもつながる広告の運用方法です。
Facebook・Instagram広告ではこのクリエイティブの運用が成果を上げるためには欠かせません。ただ、持続するループのためには人力だけでは限界があるとも感じています。まだその仕組みづくりは道半ばですが、より早く確実に学びを得られる仕組みを作っていくのが今の目標です。

これからも新しい手法や新しいテクノロジーが次々に登場することでしょう。「人に何かを届ける、知らせる」広告そのものの役割を忘れず、新しいチャレンジをしていきたいと思っています。

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