ユーザーと企業の間にたってコミュニケーションをサポートする、コミュニティマネージャー。その求められる役割について、現場から感じていることをまとめました。
コミュニティマネージャーとは
「コミュニティマネージャー」という言葉を、ソーシャルメディア運用担当者なら、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか? すでにそのような肩書で仕事をされている方もいらっしゃるかもしれません。
昨今では主にオンラインの、ソーシャルメディア上に形成されるコミュニティの運用、マネジメントをする職種を指す言葉になっています。
コミュニティマネージャーは、ソーシャルメディアの先進国アメリカでは注目度の高い職種で、需要が供給を上回るとまで言われるほどです。日本でもTwitter、Facebookなどのメディアを利用する企業が急速に増え、その役割を業務として担うようになった方も多いのではないでしょうか?
養成講座などもあり、企業がソーシャルメディアを積極的に活用するようになって、コミュニティマネージャーという言葉も徐々に定着してきています。
とはいえ、日本の企業においては、コミュニティマネージャーとして、専任でその業務についている方はまだまだ少なく、広報部やカスタマーサポート部門が兼任で担っていることも多いのが現状です。また、配置転換などで、ようやくスキルを身に着けた人が別部署に異動になり、そのノウハウが継承できず、新たに配属された次の担当者が一から学ぶというケースも、多くあるようです。
そこで、改めて、コミュニティマネージャーに求められるものは何か?について考えてみました。
コミュニティマネージャーに求められる資質
2006年に、Twitter、Facebookがアメリカで生まれ、その翌年の2007年に、米ソーシャルメディア調査会社Altimeter GroupのアナリストJeremiah Owyangが「コミュニティマネージャーに求められる4つの資質」をあげています。
- コミュニティの代弁者であること
- ブランドの伝道者であること
- 優れたコミュニケーションスキルと編集技術
- 将来の製品やサービスにコミュニティで得たものを生かす
http://www.web-strategist.com/blog/2007/11/25/the-four-tenets-of-the-community-manager/
2008年には日本語版Twitterが登場し、2010年、Mashableのコミュニティマネージャーであり、ソーシャル戦略担当者でもあったVadim Lavrusikは「できるコミュニティマネージャーのための10のTips」としてまとめています。
- 企業、製品サービスのエキスパート、エヴァンジェリストになること
- 企業や製品の愛好者でありつつも、ユーザーの代弁者であること
- コミュニケーションスキルを磨くこと
- ブログを書き、ソーシャル上での存在価値をあげること
- 正直であること
- 複数の業務に精通すること、自社のプラットフォームに優先順位をつけること
- 顧客の声をよくきき、実りあるものにし、良い関係を築くこと
- オン、オフ問わずかかわりをもつこと
- 起業家のように考え、変化についていくこと
- 自分だけでなく、同僚もコミュニティ構築に関わらせること
http://mashable.com/2010/08/21/community-manager-jobs/
ここにあげられた、4+10の項目を改めて見直してみると、コミュニティマネージャーとして求められること、やるべきことは
- ユーザーの声を聴き、社内に戻し生かすこと。
- 企業ブランド、製品、サービスを適切にユーザーに伝えること
- そのためのコミュニケーションスキルをあげること
にまとめられるように思います。
私は現在、企業様のソーシャルメディア運用のお手伝いをさせていただいていますが、この内容は、発表から年月がたった現在でも当てはまるし、納得できるものだと思います。それは、基本的にソーシャルメディア上で行われているものが「ユーザーと企業がコミュニケーションする」ということには変わりがないからだと思います。
その一方で、その質、スタイルというものは変わってきているように感じます。
クローズドで密だったオンラインコミュニケーション
1990年代、ある情報会社に勤めていた際に、当時の大学生数百人に集めて、情報交換をしてもらうフォーラムを運用していたことがあります。その設立目的は、学生の活動状況のヒアリングを行い、そこで得られた情報を自社の営業活動の参考にするというものでした。参加者に対して自社の情報を積極的に提供する、ということではなかったので、「語りやすい場」を維持することが重要で、そのために積極的にコメントしたり、自己紹介を促したり、誤解を生みそうな発言にはフォロー発言をしたり、試行錯誤しながら運営を続けていました。
当時は、オンラインでコミュニケーションをする人はまだ一部の人だけでした。パソコン通信と呼ばれていた時代です。参加者は、ネットコミュニケーションという新しいコミュニケーションの先駆者であるという意識を持っていたのではないかと思います。学生でありながらも、相手が不特定多数であること、文字だけのコミュニケーションは誤解を生みやすいことなどを、事前に学習し、あるいは新しく入ってきた他の学生と共有し、ホストである私以上に、その場の環境維持に気を配ってくれていました。
そんな中でも、不適切な発言や、他の参加者を非難するような輩はいました。今であれば、炎上といわれる事態になっていたかもしれませんが、そうした発言をする人に、どういった態度で臨めば、騒ぎが拡大しないか、ということを参加者は肌で感じて、実行していました。その場を維持して、コミュニケーションを続けたい、そういう気持ちを、多くの参加者が持ってくれていたように思います。
そういったコミュニケーションのできる場、グループとして閉じていて、積極的なコミュニケーションのカタチは、現在でも残っていると思います。ですが、一定以上の規模を持つ企業のソーシャルメディア活用では、それらと異なる形でのコミュニケーションが求められるようになってきています。
オープンで軽いコミュニケーション
以前はグループに参加を表明し、クリックしたり、コマンドをたたいたりして、その掲示板を見に行って初めて得られた情報が、今では、更新と同時に自動的に自分のアカウントのニュースフィードやタイムラインに表示されます。ユーザーはそれを見てから、必要だと思ったら、あるいは興味をもったら、そこで改めて検索したり、まとめコンテンツを見に行ったりといったアクションを起こせばよくなりました。
私たちの身の回りにある情報は年々爆発的に増え、追い切れないほどの量になってきています。そしてコミュニケーションの場であるメディアもそれに対応し、ユーザーにとって必要な情報だけを短時間で見ることができるようになりました。
そうした環境の変化の中、ユーザーは、自分の目の前に流れてくる情報(コメントを含め)が、必要か不要か? 快か不快か? を即時に判断し、必要だと思えばアクションを起こし、時にはリアルな人間関係にまでそれを拡散し、逆に不要だ、不快だと感じればアクションを起こさない、あるいは情報を無視する。Facebookでいえば、そうしたわずかなアクションを読み取り、その関係の変化をエッジランクというシステムでさらに加速させます。
また、広くソーシャルメディアが普及したことで、情報を発信する人も、受け取る人も増え、次々と新しい情報が流れるその場に、流れに棹さして、長々とコメントを書くには、それ相応のドライブと覚悟が必要になったように思います。
自分の考えや意見を、熱く語るのは、ブログメディアに移行し、コミュニケーションの場であるソーシャルメディアでは、それよりむしろ、あっさりと、軽いノリで、短い言葉を何度も交わし、その言葉のやりとりの流れで、お互いがその意を汲む、というように役割を分けて進化してきたと思います。
優秀な翻訳家のように
企業のコミュニティマネージャーは、そうした、ソーシャルメディア上の短い言葉のやりとりから、ユーザーの持つ企業へのイメージやリクエストを汲み、個人的な見解として聞いておくだけのものなのか、ユーザーの意見として社内に戻すものなのかを判断する必要があります。
またそうした中でも長々と書かれたコメントについては、その意を汲んでその場で、あるいは、別の手段(メールなど)で対応するなどの判断も求められます。
同時に、企業側にも、ソーシャルメディアに対して、情報提供の場として、多くの情報をユーザーに提供したいという想いがあります。コミュニティマネージャーは、その多くの情報の中から、企業が本当に伝えなければいけないものは何か? ユーザーが求めているものは何か? といった視点で情報を厳選し、提供していかねばなりません。
ユーザーからすれば企業の代弁者であり、社内から見ればユーザーの代弁者であるコミュニティマネージャー。ユーザーから寄せられる、社内からあげられる膨大な量の情報は、そのまま伝えるべきものも、そのまま伝えられない(伝えるべきではない)ものもある。それを精査し、見きわめる。ユーザーと企業が、今よりもっとお互いを理解しあえるようになるために、優秀な翻訳家のように、その意を汲んで、それぞれに伝えていく技術が求められているのではないかと思います。