
Google広告の標準的なコンバージョン計測では、コンバージョンは実際に購入された商品ではなく、広告がクリックされた商品に紐づきます。デフォルトでは、Google広告のレポートと価値ベースの入札は収益のみを基準としており、コンバージョン値は売上を反映するだけで、利益は管理画面上に表示されません。
カートコンバージョンレポートと売上原価(Cost of Goods Sold:COGS)を有効にすることで、この状況が変わります。 いずれもGoogle広告とGoogleマーチャントセンターの標準機能として提供されています。
- カートコンバージョンレポート:各広告クリックから実際にどの商品が売れたかを可視化する
- 売上原価:その商品の原価情報を追加し、収益だけでなく利益を可視化する
- 両方を設定し、アカウントが対象条件を満たすと、P-MAXや標準ショッピングのスマート自動入札で利益に向けた自動最適化が可能になる(現在ベータ版)
本稿では、カートのデータで何が見えるようになるのか、GAのデータレイヤーとGoogleタグマネージャーを使った実装方法、そして売上原価を追加することで利益ベースのレポートと入札戦略がどこまで可能になるのかを整理します。
カートコンバージョンレポートと売上原価で何が見えるようになるか
カートコンバージョンレポートと売上原価を設定すると、Google 広告の管理画面で以下の指標が利用可能になります。
カートデータで追加される指標
- カートの平均サイズ:注文1件あたりの平均商品点数
- 販売数:商品の販売数量
- 主力商品の販売数 / 収益:クリックされた商品自体の販売数量・売上
- クロスセルの販売数 / 収益:別商品の広告から生まれた販売数量・売上
ポイントは、クリックされた商品と実際に購入された商品の関係が見えるようになることです。
売上原価で追加される指標
- 総利益:売上から原価を差し引いた利益額
- 粗利益率:売上に対する利益の割合
- 主力商品の総利益:クリックされた商品自体から得られた利益
- クロスセルの総利益:別商品の広告から生まれた利益
これらの指標により、収益だけでなく利益への貢献度でキャンペーンや商品を評価できるようになります。
データの確認方法
これらは管理画面の「指標項目」メニューから列を追加するか、「レポート」セクションの事前定義テンプレートを使って確認できます。

スマート自動入札戦略「利益の最適化」(ベータ版)

手動でのキャンペーン構成やレポート分析に加え、GoogleはP-MAXと標準ショッピング向けの自動「利益の最適化」目標を導入しています。Google Marketing Live 2024で発表され、執筆時点ではベータ版です。現時点では公式ドキュメントは公開されていません。以下の内容はGoogleサポートへの確認に基づく情報です。
前提条件
- Google広告のコンバージョンタグでカートコンバージョンレポートが有効になっていること
- マーチャントセンターで[
cost_of_goods_sold]属性により売上原価データが設定されていること - コンバージョンとフィード間で商品IDが一致し、収益と原価を正しく紐づけられること
利用可能になるタイミング
- 上記の設定が完了すると、対象となるP-MAXおよびショッピングキャンペーンの設定画面にスマート自動入札戦略「利益の最適化」が自動的に表示されます。
- 表示までに最大30日程度かかる場合があります。
- ベータ版であるため、すべてのアカウントで利用できるとは限りません。
動作の仕組み
- この入札戦略が利用可能な場合、スマート自動入札は収益を代理指標とするのではなく、総利益に向けて直接最適化します。 レポートに使用されるカートデータと売上原価データの設定が、そのままスマート自動入札の入力として再利用されます。いずれかのデータが不完全または不整合な場合、利益最適化の精度にも影響するため、データ品質が重要です。
目標が表示されない場合でも、アカウントは引き続き収益ベースの目標を使用できます。利益指標はレポートで確認できるため、分析や手動での戦略判断には活用可能です。
カートデータとは何か
カートデータは、Google広告の標準コンバージョン計測を拡張し、コンバージョンごとに購入商品の全リストを送信する仕組みです。注文ごとに、コンバージョンタグはカート内のすべての商品について、商品ID、数量、価格を含む [items] 配列を送信します。
商品レベルで必須となるパラメータは以下の3つです。
- [id]:商品ID。マーチャントセンターの商品フィードで使用しているitem IDと一致させる必要があります。
- [quantity]:その商品が注文に含まれる数量。
- [price]:購入時点の単価。
Google広告のコンバージョンタグでは、以下のような [items] 配列として受け取ります。
'items': [
{ 'id': 'id123', 'quantity': 2, 'price': 1250 },
{ 'id': 'id345', 'quantity': 1, 'price': 3000 }
]
より高度な実装では追加のオプションフィールドも利用可能で、完全な一覧はGoogle広告ヘルプに記載されています。
Google広告側では、[id] を使ってマーチャントセンターの商品フィードと照合し、特定の広告がクリックされた結果、実際にどのカタログ商品が売れたのかを把握します。
カートデータ送信の実装方法
Google広告コンバージョンタグに [items] 配列を渡す方法は主に3つあります。
- コンバージョンタグの直接編集 Google広告のコンバージョンタグのコードを編集し、[items] 配列を含めます。
- Googleタグマネージャー GTMでGoogle広告コンバージョンタグを使って実装している場合、「商品単位の販売データを提供する」オプションを有効にし、対応するフィールドで商品データを渡します。
- アナリティクス連携 GAのeコマース計測が正しく実装されており、コンバージョンをGoogle広告にインポートしている場合、アナリティクス連携経由でカートデータを渡すことも可能です。ただし、アナリティクス側で商品レベルのeコマースデータが正確に記録されていることが前提です。
カートデータ送信の実装パターンと設定の詳細は、Google広告のヘルプにまとまっています。
Googleタグマネージャー(GTM)でのカートデータ送信の実装
このセクションでは、GAの標準eコマースデータレイヤーがすでに導入されているサイトを前提に、既存の [items] 配列をGTM内でカートデータ用形式に変換し、Google広告コンバージョンタグで送信する手順を示します。
Step 1:GAの商品データを読み取る変数を作成する
GTMでデータレイヤー変数を作成し、購入完了ページのGAのeコマースデータから商品情報を取得します。
- 名前:[
purchase_items_DL] - タイプ:データレイヤーの変数
- データレイヤーの変数名:[
ecommerce.items]
※ [ecommerce.items] はGAのeコマースデータレイヤーの標準キー名です。サイトの実装によってキー名が異なる場合は、実際の構造に合わせて変更してください。
Step 2:GAの商品データをカートデータ用形式に変換する
カスタムJavaScript変数を作成し、GAの商品データをGoogle広告のカートデータ用形式に変換します。
- 名前:
google_ads_cart_data - タイプ:カスタム JavaScript
- コード:
function() {
// purchase_items_DL is a GTM Data Layer Variable that should return the GA items array
var sourceItems = {{purchase_items_DL}};
var cartData = [];
if (!sourceItems || !sourceItems.length || !Array.isArray(sourceItems)) {
return cartData;
}
for (var i = 0; i < sourceItems.length; i++) {
var item = sourceItems[i];
cartData.push({
id: item['item_id'],
quantity: parseInt(item['quantity'], 10),
price: parseFloat(item['price'])
});
}
return cartData;
}
この関数は以下の処理を行います。
- GA形式の[items]配列を読み込む
- カートデータで必須の3項目([
id]、[quantity]、[price])のみを含む新しい配列を生成する
※ Step 1で変数名を変更した場合は、コード内の {{purchase_items_DL}} も合わせて更新してください。
Step 3:Google広告コンバージョンタグを設定する
GTM上のGoogle広告コンバージョンタグを編集し、商品レベルのデータ送信を有効にします。
- 「商品単位の販売データを提供する」 にチェックを入れます(インターフェースの言語設定によって表記が異なる場合があります)。
- 各フィールドを以下のように設定します。
- 販売者ID:任意。複数のマーチャントセンターアカウントで商品を分けている場合に使用
- フィードの国:日本の場合は[
JP] - フィードの言語:日本語の場合は[
ja] - 割引:任意。注文レベルの割引額(特定商品に紐づかないもの)を共有する場合に使用。動的に値を渡す(例:
15000) - アイテム:商品情報です。Step 2で作成したカスタムJavaScript変数を選択(例:
{{google_ads_cart_data}})
- GTMコンテナを公開します。
公開後、Google広告のコンバージョンタグはコンバージョンごとに商品レベルの[items]配列を送信するようになります。データが蓄積されるにつれて、カートベースのレポートが利用可能になります。
売上原価を追加して利益を可視化する
カートデータの送信により、実際に何が売れたかを正確にレポートできるようになります。ただし、その売上が利益を生んでいるかどうかまでは分かりません。
ECサイトのGoogle広告運用の多くは、依然として収益を最適化の指標としています。新規顧客の獲得や、採算度外視の集客商品(ロスリーダー)で販売数を稼ぐ目的であれば、それは適切な選択です。しかし、多くのビジネスにおいて最終的な制約条件は収益ではなく利益です。値引き商品や低マージン商品はコンバージョンしやすく、コンバージョン値も押し上げるため、価値ベースの入札戦略では優先されがちですが、総利益への貢献はわずかということも少なくありません。
カートコンバージョンレポートが整った状態で、Googleマーチャントセンターのフィードに売上原価を追加すると、Google広告内で収益だけでなく総利益も可視化されるようになります。
売上原価データの設定方法
売上原価データは商品フィードの[cost_of_goods_sold]属性として登録します。各商品について、このフィールドには以下の情報を含めます。
- 商品原価と通貨コード(例:
13253 JPY)
この属性は以下のいずれかの方法で提供できます。
- メインの商品フィード
- 補助フィード(サプリメンタルフィード)
- Content API
原価の値は1円単位で正確である必要はありません。高マージン商品と低マージン商品を区別できる程度の概算値であれば機能します。
なお、利益そのものはコンバージョンタグから送信されません。Google広告は、コンバージョン値(カートデータから取得)と該当商品IDの売上原価データ(マーチャントセンターのフィードから取得)を組み合わせて、サーバーサイドで総利益を計算します。これにより、原価データがブラウザに露出したり、エンドユーザーから見えたりすることはありません。
まとめ
カートコンバージョンレポートと売上原価を組み合わせることで、Google広告は収益のみのレポートから、利益を把握できる環境へと進化します。
カートデータは、コンバージョンタグに商品レベルの注文詳細を追加し、クリックされた商品と実際に購入された商品のギャップを可視化します。主力商品とクロスセルを区別したレポートが可能になります。
売上原価データは、マーチャントセンターの[cost_of_goods_sold]属性を通じて商品レベルの原価情報を追加します。原価データはブラウザに露出せず、Google広告がサーバーサイドで総利益と粗利益率を計算します。
両方を設定し、対象条件を満たすアカウントでは、P-MAXと標準ショッピングのベータ版**「利益の最適化」**目標により、総利益に向けた自動最適化も可能になります。
GAとGoogleタグマネージャーをすでに使用しているアカウントであれば、実装作業は大きな負担ではありません。

日本企業でのインハウスマーケティング担当を経て、4年間、運用型広告代理店でユニット長を務める。Google広告とMeta広告が得意で、ショッピング広告、商品フィード作成、テクニカルマーケティングなどを中心に、データを活用した戦略的な広告運用を行ってきた。
4ヶ国語を操り、国際的な視点での広告運用を強みとしています。
2024年には、イタリア・ボローニャで開催されたヨーロッパ最大級のPPC専門イベント「Adworld Experience」にメインスピーカーとして登壇。TwitterやLinkedInを通じてウェブマーケティング業界のコミュニティ活動にも積極的に参加し、2025年にはPPCsurveyの「最も影響力のあるPPCエキスパートトップ100」に選出。
趣味は読書(とオーディオブック)で、ジャンルはサイエンスフィクションとノンフィクションが中心です。



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