デジタル広告をB2Bで始めるための5ステップ
2025年12月8日
ライター:Jose Uzcategui
(English version of the post also available here)

最近、「どこから始めたらいいか」「長年広告をやってきたけどリブートしたい」という経営者・リーダーからの相談が少しずつ増えています。驚くことではありません。状況が変わりましたから。今こそ基本を見直す良いタイミングかもしれません。

B2Bでのデジタル広告に乗り出すと、プラットフォーム、フォーマット、指標、そして近年では AI がデジタル環境に与える影響など、検討すべき要素が数多くあって圧倒されがちです。

AIモデルを活用して広告を手伝ってもらうことは有益ですが、適切な基礎マインドセットと戦略なしでは、B2B広告は成果を出せず、低価値のリードを集めたり、コストが膨らんだりしてしまう可能性があります。B2Cとは異なり、取引きを即時行うのではなく、時間をかけて意思決定者たちとの信頼を築く必要があるからです。

ここでは、B2Bのオンライン広告を「焦点を絞って/自信をもって」始めるための実践的な5ステップをご紹介します。

  1. 誰に話すかを定義する、その「一歩先」を
  2. ファネル戦略を持つ
  3. 本物のメッセージを作る
  4. 競合の広告を理解する
    1. Google Ads Transparency Center / 広告の透明性
    2. Meta 広告ライブラリ
    3. LinkedIn 広告ライブラリ
  5. Webやパイプラインを越えて “コンバージョン” まで測る
  6. 助けを求める
  7. 最後に

1.誰に話すかを定義する、その「一歩先」を

多くの企業は自分たちのユーザーが誰かという感覚は持っています。それは当然のことです。しかし、成功するデジタルマーケティング戦略には、より深い理解が必要です。特にB2Bでは、営業サイクルが長く、複数の関係者が影響を及ぼし合いながら購入の意志決定が行われます。購買委員会の中で「誰をターゲットにするか」はしばしば難題です。

広告を出す前に、誰に届いてほしいかを明確にしてください。エンドユーザーに焦点を当てるべきでしょうか?エンドユーザー向けに説明すれば皆の協力は得られますが、技術面で意思決定に関わる人たちにはどのように対応しましょう?彼らは、エンドユーザーが価値提案に賛成していても、その裏で交渉を止める力を持つことがあります。財務担当チームはどうでしょう?価格、ROI、財務関連のメッセージが響かないなら、CTOが交渉を始める前にブロックしてしまう可能性もあります。

すべての意思決定者に向けて価値提案を出そうとするのが最も効果的とは限りません。しかし逆に、メッセージを絞りすぎるのも、B2Bの購入決定が複数人でなされるという性質を無視したものになってしまうかもしれません。

ターゲットが「効率」「革新」「コスト削減」「成長」のどれを重要視するかが分かれば、メッセージは自然と定まってきます。

例えば、ある架空のエンタープライズeSignature SaaS企業を考えてみましょう。以下のメッセージ、ターゲットはどこでしょう?

  • “どこからでも署名して完了できるーもう書類に追われる必要はありません”: エンドユーザー向け
  • “ドキュメントを安全かつコンプライアンスに沿って管理 —1度のログインで全ての機能にアクセスでき安全な監査ログ”: 技術チーム向け
  • “書類処理を60%削減し、余分な業務負担からチームを解放 ”: 財務チーム向け


それぞれ、エンドユーザー/技術リード/財務リードを意識したメッセージです。万能な解決策はありませんが、誰に話しているかを知ることが不可欠です。

2.ファネル戦略を持つ

B2B広告は、ファネル(購買プロセス)のどこにいるかによって非常に異なる目的を持ちます。戦略レベルだけでなく、戦術レベルでも「何をしようとしているか」を明確にする必要があります。

  • 人々は私のブランド/商品を知っているか?紹介できる資料は十分か?トップ・オブ・ファネルの見込み客を生成しようとしているのでしょうか?
  • デモの申し込みや資料ダウンロードのような“質の高いリード”を獲得したいのですか?それともミドルファネルローワーファネルに近い施策で達成されるような別のアクションでしょうか?
  • 定義されたターゲット企業を対象に、アカウントベースドマーケティングをしたいのでしょうか?

それぞれの目標には、異なるメッセージ、オファー、そして成功指標が必要です。自分の戦略を把握しておくことで、より賢く予算を使い、結果を正しく解釈できるようになります。

主要な広告プラットフォームでは、キャンペーン設計時にこのような意図を必ず問われます。キャンペーン設定・入札・最適化は目的によって異なります。

主なプラットフォームのキャンペーンタイプ

こちらに3つの主要な広告プラットフォームと、活用できるいくつかのキャンペーンタイプを紹介します。

  • Display キャンペーン(ファネル上部):さまざまなサイトに広告を表示する。
  • Performance Max(全ファネル):設定した目標を達成するために、Google のすべてのプロパティを活用して最適化する。
  • Video キャンペーン(ファネル上部):YouTube や提携サイトに動画広告を表示する。
  • Demand Gen キャンペーン(ファネル上〜中部):ブランドや製品への関心を喚起するのに適している。
  • Search キャンペーン(ファネル中〜下部):販売やリード獲得に適しており、より細かなコントロールが可能。
  • App キャンペーン(ファネル中〜下部):モバイルアプリ内の広告枠をターゲットにする。
  • Awareness キャンペーン(ファネル上部):リーチ数とインプレッションに重点を置く。
  • Traffic キャンペーン(ファネル上〜中部):ウェブサイトやランディングページへのクリックを促すための設計。
  • Engagement キャンペーン(ファネル上〜中部):コミュニティ形成や社会的証明の構築に役立つ。
  • Lead キャンペーン(ファネル中〜下部):リード獲得に効果的。
  • Sales / Conversion キャンペーン(ファネル下部):Meta Pixel や Conversions API を使用してサイト上のアクションを計測する — 購入やサインアップなど、ファネル下層部の戦略に最適。
  • Brand Awareness(ファネル上部):認知度や親近感を高める。
  • Website Visits(ファネル中部):自社サイトへのトラフィックを促進する。
  • Engagement(ファネル中部):コミュニティの交流を促す。
  • Video Views(ファネル中部):動画を通じてストーリーや顧客の成功事例を紹介する。
  • Lead Generation(ファネル下部):事前入力済みのリードフォームを使って、LinkedIn 上で直接リードを収集する。
  • Website Conversions(ファネル下部):サイト上でのコンバージョンを促す。

すべてを同時に使う必要はありませんが、複数から始めるのが良いでしょう。

3. 本物のメッセージを作る

ターゲットが決まり、戦略が定まったら、目的を持ったメッセージ作成に時間をかけましょう。効果的なライティングは簡単ではありません 。 時間、共感、明確さが必要です。AIに任せたくなる誘惑はありますが、文章が自動化されるほど、「本物らしさ」が差別化の鍵になります。チームが一貫性を保つためのメッセージのフレームワークは数多くありますが、届けたい相手と直接話すことに勝るものはありません。

相手が課題をどのように話しているのかに耳を傾けると、どんな言葉やトーンを選べば相手の心に響くメッセージを伝えられるのか分かることが多いです。

💡ヒント:機能ではなく、解決を語る

技術仕様、機能、テクノロジー、統合…そういったものに惹かれがちですが、オーディエンスは機能そのものを買うのではなく、自分の問題を解決する手段を買うのです。

架空のサイバーセキュリティ企業を例にしてみましょう。

  • ⚠️ 機能ベースのメッセージ:
    「AI 駆動のマルウェア検知と高度なエンドポイント保護。」
  • 解決策ベースのメッセージ:
    「サイバー攻撃がビジネスを止める前に防ぎましょう。」
  • ⚠️ 機能ベースのメッセージ:
    「自動アラート付きのリアルタイム監視。」
  • 解決策ベースのメッセージ:
    「何か起きても即対応してもらえるから、安心して眠れます。」

 このように、「何をするか」ではなく「どう変わるか」に焦点を当てることで、メッセージはより人間的で響きやすく、記憶されやすくなります。

一つのキャンペーンにつき、伝えたいメリットを一つに絞ることが重要です。

4.競合の広告を理解する

意外と多くの経営者が、広告ライブラリー(Ad Library)を使って他社の広告を調べられることを知りません。

この仕組みは、2018年に米国の選挙広告の透明性問題を受けて登場しました。Facebook(Meta)が最初に主要プラットフォームで導入し、徐々に商業広告もその枠組みに含まれるようになりました。現在では、業界のメッセージングの風景を理解するための価値あるツールです。他社がどんな戦略を打っていて、自社がどんな声で差別化できるかを探る手掛かりになります。

競合広告を調べることで、次のようなことに気付けます:

  • どのメッセージを強調しているか?どんな機能を強調しているのか、どんな解決策を提示しているのか、どんな視点(アングル)で訴求しているのか?
  • 価格に関するメッセージ。価格やセール、割引をアピールしていますか?
  • フォーマットは?動画か、ダウンロードか、画像か、人物か、イラストか?
    「コピーする」ことが目的ではなく、「現在の対話を理解しつつ、自社の声を見つける」ことが目的です。


注目の広告ライブラリー:

2023年に初めて導入された Google 広告トランスペアレンシーセンターでは、YouTube、検索、ディスプレイなど Google の各プラットフォームで配信された広告を検索・閲覧できます。広告クリエイティブ、表示地域、広告主情報を表示することで、透明性と説明責任を促進することを目的としています。

Meta 広告ライブラリ

2019年に開始された Facebook の広告ライブラリでは、Meta の各プラットフォーム(Instagram を含む)で配信中のすべての広告に一般公開でアクセスできます。これは、政治広告、社会問題関連広告、商業広告における透明性を高めるための Meta の取り組みの一環です。

LinkedIn 広告ライブラリ
LinkedIn は 2023 年に広告の透明性ツールを導入し、特定の広告主が配信している広告を閲覧できるようになりました。Google や Meta と比べると範囲は限定的ですが、企業がプラットフォーム上でどのようなスポンサーコンテンツを促進しているかを把握する手がかりを提供します。

5.Webやパイプラインを越えて “コンバージョン” まで測る

マーケターはデータが重要だと理解していますが、B2B では成功を把握することが複雑になる場合があります。

デジタル戦略はリードの獲得や育成には非常に有効ですが、B2B の場合、実際の販売や契約が成立するのはリードを獲得してからずっと後になることが多いのです。

さらに現在、計測(メジャーメント)を取り巻く環境も過渡期にあり、さまざまな課題が生じています。新しい測定戦略、プライバシー問題、政府規制、複雑化する消費者の旅路、AIの影響…などが、今「何をどうすべきか」を難しくしています。しかし、前に進まなければなりません。

💡ヒント:ツールを使い始める前に、まず自分の戦略と「何を明らかにしたいのか」を見直しましょう。

認知拡大? ダウンロード? リード獲得?ここを整理しておくと、後の作業がぐっと楽になります。オンラインでの成果測定は一通りではありません。選択肢を理解することで優先順位を決められます。ここでは、以下3つの観点から検討を:

  1. 広告プラットフォーム(比較的簡単)
  2. 自社Webサイト/アプリ(少し難しい)
  3. サーバーサイド(より高度)

広告プラットフォーム

全ての広告プラットフォームでは、タグを設定してコンバージョンを追えます。例、MetaはMeta Pixel、Google Adsはconversion tag、LinkedInはInsight Tag 2.0。特に上層ファネルではこれが重要です。広告プラットフォームのタグを使うと、プラットフォームのアルゴリズムが良く働き、より良い最適化が可能になります。上層ファネルでは「閲覧後のコンバージョン(view-through)」、ポストクリック/クロスデバイス/モデル化されたコンバージョンなども考慮が必要です。

自社Webサイト

Google Analytics 4(GA4)は、規模や戦略を問わずデジタル広告主にとって基盤的なツールとなっています。メインで使われる web 分析ツールであり、他のツール(Adobe Analytics, Piwik など)と組み合わされることもあります。注視すべきは、トラフィックの出所、コンバージョン/マイクロコンバージョン(Google Analytics用語で “key events”)/ランディングページのパフォーマンスなどです。また、Google Ads、BigQuery、Search Console、Merchant Center と連携しておくこと。広告プラットフォーム(Meta、Pinterest、Reddit 等)からのコスト情報インポートなども検討しましょう。

サーバーサイド

より先進的なユーザーにとって、サーバーサイド分析はより良いデータと柔軟な環境を提供します。ID情報と掛け合わせて内部分析を拡張できるからです。

例として、Google の「Server-side Tag Manager」などがあります。

6.助けを求める

(※記事では「5ステップ」ですが、6番目として「助けを得る」が挙げられています)
自分たちだけ/社内だけでやる限界が見えてきたら、専門家の助けを得ることに投資する価値があります。

必要に応じて、社内採用・フリーランス・代理店のいずれかを検討してください。経験ある代理店による簡単な監査/相談だけでも、時間、予算、チャンスの損失を防げることがあります。

例えば、アユダンテでは、Google、Meta、Yahoo! Japan、X 等の主要広告主のパートナー・認定を取得しています。 (代理店選び/相談先選びの検討も重要です)

最後に

B2Bにおけるデジタル広告のスタートにあたって、巨大なプレイブックが必要なわけではありません。必要なのは、明確さ/一貫性/試す意欲です。

誰に話しているかが分かり、彼らがファネルのどこにいるかを理解し、機能ではなくソリューションを伝えることができれば、残りは自然とシンプルになります。

まずは少数のチャネルから始め、データに興味関心を持ち続けてください。クリック数だけでなく、実際にビジネスの会話を前進させる“重要な瞬間”を追跡することが大切です。 これらの土台がしっかり整えば、拡大は一気に楽になります。より良い意思決定を行い、心に響くキャンペーンを作れ、最終的にはデジタル広告を「信頼を築き、勢いをつくり、長期成長を実現する」手段として活用できるようになります。

アユダンテでは月1でニュースレターの配信を始めました

この記事を書いた人
$uname
Jose Uzcategui
デジタル広告&アナリティクスコンサルタント
(グローバル)
ベネズエラで育ち、高等教育のためにカナダへ移住し、北米と日本でプロフェッショナルキャリアを築いてきました。現在はアユダンテに所属し、デジタル広告とマーケティングアナリティクスを専門としています。データアーキテクチャ、測定、クラウド技術のバックグラウンドを活かし、グローバルクライアントの広告パフォーマンスと戦略の最適化を支援しています。専門分野はGoogle Marketing Platform、アトリビューションモデリング、フルファネルアナリティクスです。趣味はスカッシュと料理。日本語、スペイン語、英語、そして日本の春が好きです。
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