Google、Chromeのサードパーティクッキー廃止を撤回
2024年07月26日

(こちらをクリックすると英語版をご覧いただけます。)

2024年7月22日、Googleは驚きの発表を行いました。Google Chromeでサードパーティクッキーを維持する可能性がある(原文は英語のみ)と表明したのです。

“サードパーティクッキーを廃止する代わりに、Chromeに新しい機能を導入します。この機能により、ユーザーはWebブラウジング全体に適用される情報に基づいた選択を行い、その選択をいつでも調整できるようになります。(Instead of deprecating third-party cookies, we would introduce a new experience in Chrome that lets people make an informed choice that applies across their web browsing, and they’d be able to adjust that choice at any time. )”

Anthony Chavez
VP, Privacy Sandbox, Google

これまで、GDPR(EU一般データ保護規則)やCPRA(カリフォルニア州プライバシー権法)など、プライバシー保護の規制が強化されてきました。また、Apple Safariが普及する中で、広告収益に大きく依存しているGoogleは、自社ブラウザであるChromeでサードパーティクッキーを廃止する計画を進めていました。

しかし今回、Googleはその方針を転換し、サードパーティクッキーの使用を継続する見通しとなりました。CMAや出版社、広告主など、全ての関係者はブラウザに第三者クッキーを残す傾向にあります。この決定はデジタルマーケティング業界に大きな影響を与えると予想されています。

サードパーティクッキーは、広告の効果的なターゲティングに欠かせない重要なツールです。今回のGoogleの決定により、Googleは自社の広告ビジネスを、精密なリターゲティングのためのオーディエンスデータに基づいて維持することができるようになりました。

デジタルマーケターの皆様は、以下のような疑問をお持ちかもしれません。

順を追ってご説明いたします:

これらの疑問に対して、詳しくご説明させていただきます。

サードパーティクッキーがどのようにしてGoogleの広告リターゲティング精度を高めるのか?

この質問に答える前に、Cookie(クッキー)とは何か、そしてリターゲティングにおけるCookieの働きとは何なのかを理解する必要があります。

簡単に言えば:

  • ファーストパーティクッキーは主にサイト内での好みを覚えておくことでブラウジング体験を向上させますが
  • サードパーティクッキーは主に広告のリターゲティングに使用されます

Googleは、主に「IDE」という名前のサードパーティクッキーをクロスサイトトラッキングに使用しています。このIDEクッキーは、GoogleのDoubleClickサービス(現在はCampaign Managerと呼ばれています)によって設定され、ユーザーが訪れたウェブサイトや閲覧・購入した商品を追跡するのに役立ちます。これは、これらのウェブサイトがGoogleの広告サービスを利用している場合に限られます。

これらのデータを収集することで、Googleは以下のことができます:

  • ユーザーが閲覧したウェブサイトや商品に関連する広告を表示する
  • 他のブランドの関連商品をおすすめする

これを確認するには、「Command + Shift + C」を押してブラウザの検証ツールを開き、以下の手順に従ってください:

アプリケーション > ストレージ > クッキー > 現在のウェブサイトページを選択 > 「IDE」でフィルタリング

もしそのウェブサイトがGoogleの広告サービスを有効にしている場合、IDEクッキーが存在し、クッキーの値が同じであることがわかるでしょう。

_______

インターネットを利用する際、クッキーはユーザーの行動を追跡するために利用されることが多くあります。ここでは、具体的な例を用いて、Googleがどのようにユーザーのウェブサイト訪問履歴を把握できるかについてを説明します。

サイトA: https://ayudante.jp/

ブラウザ表示された「IDE」のクッキー値:

AHWqTUn8y-DvWqaaXQIYhf15xy2FB6rGQ-tYEY1u9VfTZUaDFJukgUiBfslXBh6cDMU 

サイト B: https://evsmart.net/

ブラウザ表示された「IDE」のクッキー値は同じになります:

AHWqTUn8y-DvWqaaXQIYhf15xy2FB6rGQ-tYEY1u9VfTZUaDFJukgUiBfslXBh6cDMU 

この場合、Googleが把握できる情報は2つあります: 

  • 訪問したウェブサイト: IDEクッキー値を通じて、Googleはユーザーが訪れたサイトAとサイトBを関連付けることができます。
  • 閲覧履歴と購入記録: ウェブサイトが詳細なトラッキングを導入している場合、ユーザーがサイト内で閲覧したページや購入した商品などの情報もGoogleに送信される可能性があります。

_______

Googleは、サードパーティクッキーに頼らずに済むように、FLEDGETopicAPIといった代替手段を導入しようとしています。しかし、これらの方法は非常に複雑で、サードパーティクッキーほどの精度を実現することはできません。

これらの代替手段は、ユーザーの興味があるトピックや分野を示すことはできますが、ユーザーが実際に閲覧した具体的なウェブページや商品情報を伝えることはできません。さらに、これらの方法を使うと、Google広告のターゲット層の精度が以前よりも低くなる可能性があります。

なぜGoogleは当初、サードパーティクッキーの段階的廃止を計画していたのか?(それが広告リターゲティングに影響するにも関わらず)

先述した内容からも、サードパーティクッキーがどれほど強力なものかがわかりますね。

2019年に遡ると、Mozilla Firefoxは2019年にリリースされたFirefox 69で、強化型トラッキング防止(ETP)を導入し、既知のサードパーティトラッキングクッキーをプライベートブラウジングと標準ブラウジングの双方にてデフォルトでブロックするようになりました。その1年後、Apple Safariは2020年にリリースされたSafari 13.1で、全てのサードパーティクッキーを完全にブロックするようになりました。

さらに、GDPR(EU一般データ保護規則)やCPRA(カリフォルニア州プライバシー権法)などの法律による規制が強化され、企業はユーザーデータの扱い方を見直す必要が出てきました。

業界からの要求やこれらの規制により、Googleは市場シェアの65%以上を占める自社ブラウザに対して、よりプライバシーを重視した解決策を開発せざるを得なくなりました。

まとめると、業界の動きや規制の要求が重なり、Googleはユーザーのプライバシー保護や法的義務に対応するために、サードパーティクッキーの廃止に向けて動き出したのです。

しかし、なぜGoogleは今回、その決定を撤回したのか?

業界の基準や規制からの圧力により、Googleは広告主に対してより正確なオーディエンスを提供することと、ユーザーのプライバシーを保護することの間で非常に難しい立場に置かれています。

Googleがこの決定を撤回した理由を理解するためにも、サードパーティクッキーの使用を続けることがGDPR(EU一般データ保護規則)やCPRA(カリフォルニア州プライバシー権法)に違反するかどうかについて説明させていただきます。

まず、これらの規制の内容を理解する必要があります。

CPRAGDPR
適用範囲カリフォルニア州の住民の個人データを収集する、一定の基準を満たす企業に適用されます。EU内の個人データを処理するすべての企業に適用され、企業の所在地は問いません。
個人情報 (PII) の定義特定の消費者や世帯を識別、関連付け、記述、または結びつけられる情報。識別された、または識別可能な自然人に関連するすべての情報。
ユーザーの権利個人情報を知る権利、アクセス権、削除権、修正権、および販売のオプトアウト権。アクセス権、修正権、削除権、処理の制限権、データの持ち運び権、および処理に反対する権利。
同意データ収集には暗黙の同意が必要で、
データ販売には明示的なオプトアウトが必要です。
データ処理活動には明示的な同意が必要です。
透明性データ収集時またはその前に、明確でアクセスしやすいプライバシーポリシーおよび通知が必要です。データ収集、処理、および共有の実践について明確で透明な情報が必要です。
データ保護企業は個人情報を保護するために合理的なセキュリティ対策を実施する必要があります。データセキュリティを確保するために、適切な技術的および組織的措置が必要です。
違反通知データ侵害が発生した場合、影響を受けた消費者およびカリフォルニア州司法長官に通知する必要があります。データ侵害が発生した場合、72時間以内にデータ保護当局および影響を受けた個人に通知する必要があります。
執行カリフォルニア州プライバシー保護局(CPPA)およびカリフォルニア州司法長官によって執行されます。各EU加盟国の国家データ保護当局(DPA)によって執行されます。
罰則故意の違反には最大7,500ドル、意図しない違反には最大2,500ドルの罰金が科されます。最大2,000万ユーロまたは年間世界売上高の4%のいずれか高い方の罰金が科されます。

上記の要約から、どちらの規制も、サードパーティクッキーの使用が法律違反であると明確に述べていないことがわかります。しかし、Googleは以下の条件を満たす必要があります。

  • ユーザーの同意: ユーザーの個人データを収集および処理するために、明示的な同意を得る必要があります。
  • 透明性: プライバシーポリシーやクッキー通知は、データ収集の方法を明確に説明する必要があります。
  • データ保護: データを保護するために、適切な技術的および組織的な対策を講じる必要があります。
  • ユーザーの権利: ユーザーは、自分のデータにアクセスし、修正、削除、処理を制限する権利を持っています。
  • 通知と開示: 収集する個人情報の種類やその使用方法をユーザーに知らせる必要があります。
  • オプトアウトの権利: ユーザーに個人情報の販売をオプトアウトする選択肢を提供する必要があります。
  • 非差別: プライバシー権を行使するユーザーに対して、サービスの質や料金などを他ユーザーと差別なく、公平に提供する必要があります。

環境の変化に対応するために、GoogleはCMPパートナープログラムを導入しました。このプログラムは、Consent ModeとGoogleタグマネージャーの統合を支援し、スムーズに実装できるようにします。これにより、クッキー同意バナーの管理、ユーザーからの明示的な同意の取得、そしてユーザーがウェブサイトを訪れる際の同意管理のプロセスを確保します。

さらに、Googleのプライバシーサンドボックスの目標は、オンラインプライバシーを守りながら、企業や開発者が成功するためのツールを提供することです。プライバシーサンドボックスには、ブラウジング中のユーザー情報を保護する技術が含まれています。これらのツールを使うことで、企業は効率的に運営しながら、ユーザーのデータを守ることができます。

また、GoogleはGoogleアナリティクス4にデータ削除リクエスト機能を追加しました。なんらかの理由でアナリティクスサーバーからデータを削除したい場合、この機能を使って削除をリクエストできます。イベントパラメータで収集された特定のテキストデータは削除され、「(データ削除)」という表記に置き換えられますが、イベント自体は全体のメトリクスにカウントされ続けます。

GDPR(EU一般データ保護規則)とCPRA(カリフォルニア州プライバシー権法)は、ユーザーのデータプライバシーを守る重要な法律です。これらの法律はサードパーティクッキーを直接禁止してはいませんが、企業がユーザーのデータを広告目的で使用する際には、ユーザーの選択を尊重することを求めています。

Googleは、プライバシーサンドボックスなどの新しいプログラムを導入して、ブラウジングの安全性と信頼性を高めようとしています。GoogleはまだChromeでサードパーティクッキーを使い続ける傾向にありますが、GDPRやCPRA、業界標準に対応する取り組みを進めています。

最後に

Googleは広告収入に大きく依存しており、これにより企業はオンラインで自社を宣伝し、正確なターゲット層にアプローチして高いコンバージョンを達成しています。これにより企業だけでなく、多くのコンテンツクリエイター(例えばYouTuberやデジタルライター)もその努力を収益化することができます。

もちろん、サードパーティクッキーを使ったGoogleのリターゲティングによるトラッキングが不快に感じられるのは理解しています。Googleはここ数年、よりプライバシーを重視したプロセスにできるよう努力してきました。2024年には、Google Chromeは依然として65%以上の市場シェアを持つ最も人気のあるブラウザです。プライバシーサンドボックスのプライバシーに配慮した機能を通じて、ターゲット広告とプライバシー保護のバランスが保たれることを期待しています。

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この記事を書いた人
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プン ジャスパー(Jasper Poon)
ソリューションコンサルタント
兼 事業推進担当
香港出身で、デジタルプロジェクト管理、データ収集(GA経由)、可視化(Power BI/GLS経由)における確かな専門知識を持っています。デジタルの世界では、一つのプラットフォームだけでは全ての課題に対処できないという考えを強く持っています。GMP製品に加えて、Google Cloudや他のUX分析ツールにも情熱を注いでいます。趣味は猫、水泳、サッカーです。
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