ツイートするたびにフォロワーが減っていく……ターゲットを重複させないソーシャル戦略/ランスタッド
2014年06月4日
ライター:藤原 亜希子

Web担当者Forumの連載「企業担当者に聞くFacebook&Twitter運用の現場」を更新しました。
今回の取材先は、ランスタッド様です。インタビュー、ライティングは『小さな会社のFacebookページ制作・運用ガイド』の著者 深谷歩さんです。

ランスタッドのWebサイト
ランスタッド公式サイト

オランダに本社を持ち、世界39ヶ国で展開する総合人材サービスのランスタッド株式会社。3年前にフジスタッフHDと統合し、オフィス系、ファクトリー系の人材派遣からプロフェッショナル転職支援まで、更なる総合人材サービスとしてのビジネス領域を拡げた。今回は、同社マーケティング&コミュニケーション本部部長の奥富毅人氏とWEB企画室の柳川しのぶ氏にお話を伺った。

  1. ソーシャルメディア活用の目的
  2. 運用体制
  3. 効果測定
  4. 利用ツール
  5. 今後の運用について

ソーシャルメディア活用の目的

FacebookとTwitterで異なる活用目的。それに合わせて運用方式も変える

―FacebookとTwitterを運用されていますが、それぞれ全く異なる運用をされていますね。それぞれのアカウントを運用するきっかけとなった背景を教えて下さい。

奥富 毅人氏
ランスタッド株式会社
マーケティング&コミュニケーション本部
部長 奥富 毅人氏

ランスタッドは国内の人材業界では6位とまだまだ規模が小さく、認知度も低いのが現状です。3年前に合併したときに、認知度を高めるためのブランディング施策の1つとしてソーシャルメディアの本格運用を考えました。

FacebookもTwitterもすでに2010年から開始していました。当時、企業のソーシャルメディア活用が話題になっており、世の中的にも双方向のコミュニケーションの重要性が訴えられていたころです。そこで、とにかく情報を発信しようと、求人情報、プレスリリース、コラム、業界情報など、1日100件位ツイートしていたのです。ですが、情報のまとまりがなく、ツイートするたびにフォロワーが減っていくような状態が生まれていました(笑)。

そこで、2011年7月頃に運用戦略を見直しました。FacebookもTwitterもそれぞれメディア特性、ターゲットが異なります。そこに立ち返って、Facebook、Twitterそれぞれ異なる目的と運用方針をたてて本格的に運用を開始しました。(奥富氏)

Twitterは求人情報だけをツイートする
拠点オフィスごとに60アカウントを運用

―Twitterはどのような目的で運用しているのでしょうか。

現在Twitterは、公式アカウントとは別に、求人情報のみをツイートするアカウントを全国のオフィスごとに取得しツイートしています。Twitterを使っている方も必要な情報を選んでフォローするようになっています。余計な情報が交じると嫌われると考え、我々のビジネスでもっとも重要な求人情報をリアルタイムに提供することに特化しました。

Twitterでは、求職者が自分で情報を探しに行かなくても求人情報をリアルタイムで得られることを目指しています。システム的には、ホームページに新しい求人が掲載されると連動して自動的にツイートする仕組みになっています。

リアルタイムにこだわったのは、特に人気の仕事などはすぐに募集枠がうまってしまうことがあるからです。求人を探している人は、よい仕事があればすぐに応募したいというニーズがあります。リアルタイムで求人情報を流すという運用方式は、我々のニーズと受け手側のニーズがマッチしたことで、徐々にフォロワーが増えてきました。(奥富氏)

―Twitterは現在60アカウントを運用されていますね。なぜここまで増やしたのですか。

ランスタッドは総合人材サービスということもあって、以前は職種も、地域も異なる情報を1つのアカウントでツイートしていました。ですが、東京で仕事を探している人に北海道の求人情報を紹介してもしょうがないですよね。そこで、まずはオフィスがある地域ごとに細分化してTwitterアカウントを開設しました。(奥富氏)

Facebookは投稿を通してランスタッドのブランディングをする

―Facebookページは具体的な求人情報は流していませんね。Facebookはどのような目的で運用しているのでしょうか。

柳川 しのぶ氏
ランスタッド株式会社
マーケティング&コミュニケーション本部
WEB企画室 柳川 しのぶ氏

Facebookでは、ブランディングを目的にしています。求職中の方だけでなく、これから求職する可能性のある人も受け入れられるような内容を投稿して、人材サービス業のランスタッドという認知度をあげることを目指しています。

ですから、投稿内容は専門的、学術的ではなく、誰でも理解できるような内容を投稿しています。お仕事をしているすべての人を応援するという気持ちで投稿しています。(柳川氏)

運用体制

Facebookの投稿は社内で企画、ライティング、画像作成。働いている人に役立つ情報を。

―Facebookの投稿を作成する運用体制はどのようにしていますか。

仕事に役立つ投稿
仕事に役立つ投稿

Facebookは投稿の中身が重要と考えており、今は6種類くらいのコンテンツを用意しています。投稿はすべて社内で作成しています。私は企画を元にスケジュールを立て、担当者にライティングや画像の用意を依頼しています。

Facebookでは、幅広く仕事に携わっている人をターゲットにしているので、簡単な英語など仕事に役立つコンテンツ、お弁当のおかずの話、ランスタッドが発信する世界的な仕事の調査結果などを投稿しています。働く方の共感を呼び、そこから参加者同士が話題にできる内容を意識しています。(柳川氏)

また、Facebookでは定期的にキャンペーンを開催しています。キャンペーンを開催する理由は、「いいね!」の数を伸ばしたいからです。やはり「いいね!」をもらえるとうれしいですからね(笑)。エンゲージメントも重視していますが、我々のような、まだまだ認知度の低い企業では、まずは多くの人と接触する必要があると考えています。そのために、これまでに接点のない方にもランスタッドを知ってもらうきっかけとしてキャンペーンを活用しています。(奥富氏)

文房具プレゼントキャンペーンの投稿
文房具プレゼントキャンペーンの投稿

春と秋のキャンペーンを開催した結果「いいね!」数は1万人弱くらい増加しました。春に開催したキャンペーンでは、世界の文房具をプレゼントにしました。プレゼントされた文具をオフィスで使うとき、ちょっとでもランスタッドのことを思い出してくれることを期待しています。(柳川氏)

プレゼントを文具に決めたのは、予算がそこまであるわけではないので、安くて関心が高いもの、数多くプレゼントできるものという条件で選択しました。人を集めたいから金券類という発想ではなくて、グローバルに展開するブランドイメージにあうもの、「働く方」に役立つものを用意しました。(奥富氏)

効果測定

Twitterからの求人応募が全体の5%を占める、求人情報を流すだけで自然とシェアされフォロワーも拡大

―Facebook、Twitterは目的も運用方針も異なりますが、それぞれどんな効果を感じていますか。

短期の仕事のTwitter投稿
短期の仕事のTwitter投稿

Twitterについては、オフィスごとにアカウントを作ってリアルタイムに配信する現在の体制になってから、コンバージョンがあがっています。私達の定めるコンバージョンは求人への応募です。短期の仕事の場合ではTwitter経由の応募のコンバージョンが5%ほどになっています。リスティングなどに費用をかけているので、そちらのほうがもちろん高いのですが、無料のTwitterを使ってボット的な運用で、5%の求人応募を獲得できていることは効果があるといえます。

Twitterのフォロワーは1年で倍近くまで伸びています。Twitterの特性からフォロワーさんが自分の知り合いに求人情報をシェアしたり、「ランスタッド経由で仕事をしてよかった」という口コミが発生したりしています。(奥富氏)

Facebookについては、まずは「いいね!」を増やして認知度を高めることが課題です。ですので、投稿ごとに「いいね!」の数をチェックして、反応が高いものは継続的に運用、低いものはコンテンツの見直しを行っています。特にキャンペーンのあとに人が増えた時は、フォローのためにもネタを引っ張って「いいね!」を維持できるようにして、その中でランスタッドという人材会社を認知してもらえるようにしています。

Facebookの運用を始めた当初は、他の部署から「求人情報をFacebookでも掲載して」という依頼がありましたが、Facebookでは求人情報は出さないということを伝え続けて、現在ではだいぶ依頼も減りました。社内でもFacebookとTwitterの異なるターゲットと運用方針が認知されてきたのだと思います。(柳川氏)

「働くこと」の汎用的な記事が人気のFacebook

―Facebookではどのような投稿に反応がよいのでしょうか。逆に反応が悪い投稿はどんな風に改善しましたか。

転職コンサルタントのFacebook投稿
転職コンサルタントのFacebook投稿

転職コンサルタントのコラムという投稿が人気で1年以上続いています。弊社の転職コンサルタントが転職についてアドバイスするものです。最初は、コンサルタントの顔を出さないで書いていたのですが、弊社のFacebookページのコンテンツの中では固めのコンテンツということもあってか、あまり「いいね!」がつきませんでした。そこで、今年に入ってから執筆したコンサルタントの顔写真を投稿するようにしてから「いいね!」が増加しました。やはり顔が見える安心感はあるのかもしれませんね。

コンサルタントに記事を依頼すると、みんなそれぞれ熱い思いがあるようで、すごく長く書いてくるのです。Facebookでは長すぎる投稿は読まれないので、私が半分くらいまでに編集しています(笑)。(柳川氏)

反応が悪かった投稿は、狭い範囲にフォーカスした転職情報です。たとえば「金融機関に転職したい人へのアドバイス」を出したら、離れる人が増えてしまいました。キャンペーンを通じて「いいね!」した人からみて、「金融機関への転職」というのは自分とは関係がない情報と思われてしまうようです。

ですので、どの人にも伝わるような汎用的な内容、働くことに関わる情報のほうが向いています。職種ごとの情報は細かくわけているTwitterのほうを見てもらうようにして、それぞれ情報の使い分けを意識しています。(奥富氏)

Twitterではあえてコミュニケーションをしない

―Facebookではコメントを返していますが、Twitterではコメントは返されていませんね。

ソーシャルメディアには、それぞれ特徴があるので、目的に応じて使い分けることが重要だと考えています。我々の場合は、求人情報をリアルタイムに届けることに重きを置いていますから、Twitterだから会話をしなきゃいけないという考えから離れ、情報配信のインフラとして活用しています。

現在のランスタッドは、認知度向上というブランドを作るステップにあります。認知度が低い時は、一人と対話していても、認知度向上にはつながらない。そこに労力をかけるよりもフォロワー数を増やし関心を持ってもらうコンテンツを配信していくほうが効果的だと思っています。

ですから、Twitterは最初から「返信はしない」ということをうたって運用しています。もうひとつの理由は、Twitterで返信するとオフィスで対応できなくなってしまうからです。質問や求人の詳細が知りたい時は、オフィスに問い合わせてもらうようにしています。(奥富氏)

Facebookでは、コメントに返信しています。クレームのような内容は誘導先を伝えて、Facebook上では議論しないようにしています。(柳川氏)

利用ツール

60アカウントを管理するのにつぶやきデスクがぴったり!

―ソーシャルメディアの運用ツールはどのように選びましたか。

日本全国56拠点にそれぞれアカウントを作成してから、全てのアカウントを1つの画面から管理できるツールを探していました。そのころちょうどアユダンテさんから「つぶやきデスク」をご紹介いただきました。

以前はフリーの測定ツールを使っていましたが、つぶやきデスクは、オフィスごとに承認フローがあること、さらに本社からも承認ができることが決め手になりました。また、解析機能も必要でしたので、ニーズにぴったりあうツールでした。(柳川氏)

―つぶやきデスクで特に利用している機能は何ですか。

ツイートごとの効果測定として、クリック数、RT数、お気に入り数を見ています。また、ツイート内容や画像などを見て、どういうツイートをすると効果があるのかは見ています。本社のアカウントだけでなく、他拠点の効果分析も管理画面からそれぞれ確認できるので、助かっています。(柳川氏)

―拠点がここまで多いと拠点によって運用のバラツキがあるのではないでしょうか。

拠点によってフォロワーが2桁のところもあれば4桁まで伸びているところまでありますね。最初に導入するときに、私達でつぶやきデスクの利用マニュアルを独自に作成して、拠点に配布しました。各拠点には「つぶやきリーダー」のような担当がいて、その人がID、パスワード、マニュアルの管理をしています。マニュアルの中に問い合わせとして、私の所属するWeb企画室の連絡先を入れているので、担当者から相談の電話を受けることもあります。フォロワー数の増加の施策などについて教えたりしています。(柳川氏)

オフィスのアカウントは求人情報の配信だけにしていますが、それぞれのアカウントが小さなコミュニティとして成長していってもらいたいと思っています。機械的な情報の中に1~2割の人間らしさを加えていきたいと思いますが、それを実行しようとすると運用要員がもっと必要になりますね。本来のSNSとしての双方向コミュニケーションがオフィスごとにできるようになるのが将来的な目標です。(奥富氏)

職種によって反応が多い時間が異なることはこれまでの運用でわかっています。つぶやきデスクでは、フォロワーがオンラインの時間がヒートマップでわかる機能があるので、赤いところ(オンラインの人が多い時間)を狙って投稿するというような戦略的な運用もしてきたいです。(柳川氏)

オフラインから紙で情報を伝えてオンラインにつなげることも大事

―フォロワー、いいね!数を増やすために何か他に取り組まれたことはありますか。

チラシのサンプル
チラシのサンプル

FacebookとTwitterの認知のために、本社でオフィスごとのアカウントの紹介チラシを作成して、各オフィスで置くようにしました。基本的なことですが、ソーシャルメディアとリアルの現場を絡めた施策をしていくことがとても重要です。

新宿オフィスではチラシを用意してから2か月でフォロワーが2,000人に達したので効果を感じています。特に地方は紙が重要で、Webだけの告知ではここまでフォロワーがのびなかったと思います。こうしたチラシを用意することで、広まりがはやくなりました。(奥富氏)

コンサルタント個人の活動はLinkedInを中心に

―LinkedInも活用されているそうですね、どういった活用をしていますか。

LinkedInでは企業アカウントもありますが、コンサルタント個人の営業活動の場として活用してもらっています。エグゼクティブの転職では、会社ではなく、コンサルタントにお客様がつくことがあります。ですので、コンサルタントが持っている情報量やつながりが重要なのです。そうした意味でLinkedInでは、コンサルタント個人が情報発信をするようになっています。(奥富氏)

LinkedInの企業アカウントでは、求人への応募を目指すよりも、人材のニュース、雇用に関する調査などを発信することで、ランスタッドに所属するコンサルタントの信頼度を上げていきたいと思います。(柳川氏)

今後の運用について

動画など新しい手法にもチャレンジして働くことの良さを広めたい

―今後ソーシャルメディアを通して目指すこと、やってみたい企画などを教えて下さい。

大きな視点では、ランスタッドが人材業界を牽引するトップリーダーになることを目指しています。Facebookページでは特に、投稿を通して働くことの文化を高めたいと考えています。働くことの良さを訴求することによって、あとからランスタッドというブランディングがついていくことを今は目指しています。

動画を使ったキャンペーンを次に挑戦してみたいと思っています。もし挑戦するなら参考にしたいと思っているサイトは、オロナインのキャンペーンサイトの「知り100」です。このサイトは、いろいろな仕事を体験する動画をまとめていて、とてもおもしろいサイトだと思っています。

Vine(バイン)やInstagram(インスタグラム)などのマイクロビデオは、「人材」「働く」「職業」といった、言葉で詳細を伝えることが難しい場合に有効だと思っています。しかし、簡単にできる反面ブランドイメージを保つには、一定のクオリティを維持する必要があるため、なかなか踏みきれずにいます。

ランスタッドではF1チームのスポンサーをしているので、F1と動画を掛け合わせて何かできないかと思案しているところです。まずはやりやすいところから始めてみて、効果検証をしていきたいです。(奥富氏)

個人が一生のうちに携わる職種はそんなに多くはないと思うので、自分の仕事以外にもさまざまな職種があって、いろいろな形の働き方、仕事に興味を持ってもらえるといいですね。その結果、「仕事」「働く」というキーワードがランスタッドというブランドにつながっていくといいですね。(柳川氏)

奥富氏と柳川氏