ソーシャルメディアのガイドライン・KPIをあえて厳しく設定しない! ユーザーと同じ目線で「楽しめる」投稿をする/ピーチ・ジョン
2014年03月6日
ライター:藤原 亜希子

Web担当者Forumの連載「企業担当者に聞くFacebook&Twitter運用の現場」を更新しました。
今回の取材先は、ピーチ・ジョン様です。インタビュー、ライティングは『小さな会社のFacebookページ制作・運用ガイド』の著者 深谷歩さんです。

ピーチ・ジョン 公式サイト
PEACH JOHN

女性向け下着の通信販売として、若い女性から圧倒的な支持を受ける「PEACH JOHN」を運営する株式会社ピーチ・ジョン。通信販売だけでなく、全国で店舗も運営している。また、新感覚ショップ「YUMMY MART(ヤミーマート)」がオープンし、取り扱う商品も下着に限らず、ファッション、化粧品、雑貨などにも広がっている。

ピーチ・ジョンでは、ソーシャルメディアの運営についてガイドラインやKPIはあえて厳しく設けず、ターゲットと同世代の運用担当者が投稿内容を考え、配信まで行う。ユーザーと同じ目線で「楽しめる」投稿を行うことで、ECサイトやカタログでは伝えきれない情報を提供している。さまざまなアカウントを活用し、ユーザーとのコミュニケーションをとるピーチ・ジョンのソーシャル戦略について話を伺った。

  1. ソーシャルメディア活用の目的
  2. 運用体制
  3. 効果測定

ソーシャルメディア活用の目的

目的が販促からユーザーとのコミュニケーションを楽しむことに変化

―Twitter、Facebookのアカウントを始め、たくさんのソーシャルメディアアカウントを運用されていますが、アカウントの概要と目的を教えて下さい。

宮澤 雅行氏
株式会社ピーチ・ジョン
販売本部 通販部 ネット通販課
課長代理 宮澤 雅行氏

運用を開始した当初は、ネット通販の商品情報やリアル店舗のセール情報など、販促関連の情報をお届けすることを目的にしていました。しかし、それだけだとおもしろくないし、ソーシャルメディアを使わなくても、カタログやメルマガでも伝えられることなので、徐々にお客様と同じ目線で楽しめるような情報や、参加型のコンテンツを増やし、お客様とのコミュニケーションを重視する方向に変わってきました。(宮澤氏)

現在運用しているアカウントは、Twitter、Facebook、mixi、写真共有サービスのSnapeee(スナッピ―)やInstagram(インスタグラム)などです。特に注力しているのがTwitter、Facebookです。Twitterはちょうど企業アカウントの運用が話題になっていた2009年ごろから、Facebookは2011年6月ごろから運用を開始しました。

Facebookは、広告管理ツールから見ていると20代後半から30代半ばの女性の反応がよいですが、その下の世代はあまりないです。これはFacebookのユーザー層を反映していると思います。一方で、Twitterのほうは10代と思われるユーザーからの反応が多いです。実際、スマートフォンからTwitterを利用する若い世代は増えているそうなので、各プラットフォームのユーザー属性とマッチしていると思います。(青池氏)

運用体制

1つの部署での運用から組織横断型のソーシャルメディアチームへ

―ソーシャルメディアアカウントはどのように運用されているのですか。

青池 玲菜氏
株式会社ピーチ・ジョン
販売本部 通販部 ネット通販課
青池 玲菜氏

ネット通販課の私、PR担当者、ストア担当者、カスタマー担当者、それぞれ1名ずつが集まって部署横断のチームとして運用しています。

  • カスタマー担当者は、アクティブフォローをする
  • ストア担当者はストアのキャンペーンや新店舗情報などをお知らせする
  • PR担当者はカタログ撮影の裏話やブログの紹介をする

といった感じで、それぞれ異なる視点からの情報を配信しています。隔週でソーシャルメディアチームの会議を開催して、ソーシャルメディアアカウントの施策、配信プランなどを話しあったり、情報の共有をしています。配信プランは決まっていますが、投稿する詳細な内容まで会議で決めるわけではないです。曜日ごとに担当者が決まっているので、担当者が配信プランに沿って投稿内容を自ら考え、自由に作成し投稿まで行っています。(青池氏)

Twitter、Facebookとも、運用を開始してからしばらくは、ネット通販課が投稿を作成していました。しかし、すぐに投稿するネタがなくなってしまい、販促情報ばかりになってしまいました。見ているお客様もおもしろくないので、「いいね!」やリツイートも増えませんでした。

そこで、2年ほど前に各部署からソーシャルメディアが得意な人を集めて、部署横断的なチームを組むことになり、部署ごとに得意な情報を発信するという現在の分業体制になりました。この部署横断的なチーム体制になってから、カタログやWebサイトでは伝えきれない情報を伝えたり、担当者とユーザーが一緒に楽しみながらコミュニケーションをとることを目指して、プッシュ型ではないツールとして活用できるようになってきました。(宮澤氏)

ソーシャルメディアの担当者は、PEACH JOHNのお客様に近い20代、30代の女性たちです。担当者はみんな、PEACH JOHNの商品やブランドが好きなので、「こういうのがいいよね!」という感じで、お客様と同じ目線で一緒に楽しんでいます。担当者がそれぞれ別の業務に携わっているからこそ発信できるネタを持っています。だから、PEACH JOHNという1つのアカウントの中に、さまざまな話題がありバランスのとれた発信ができていると思います。(青池氏)

ガイドラインはなし! 自由に発信できるから楽しい雰囲気が作れる

―複数人で運用するにあたってガイドラインなどはありますか。また取り扱う商品が下着なだけに注意していることなどはありますか。

安住 祐一氏
株式会社ピーチ・ジョン
通販部 広告・販促・企画担当
経営企画部 情報システム課 課長
情報セキュリティアドミニストレータ
安住 祐一氏

ガイドラインは、ないです(笑)。担当者がそれぞれ考えながらやっています。カスタマーサポートが担当するアクティブフォローについては、これまでの通販事業の中で培った対応スキルがあるので任せておけば大丈夫ですし、他の部署の担当者にも「あれはダメ、これもダメ」というようなルールを作ることもありませんでした。(宮澤氏)

担当者それぞれが「ECサイト作り」「店舗づくり」「PRの業務」をする中で、会社として発言していいこと、だめなことを理解しているメンバーですので、今のところ問題が起こったことはないですね。(安住氏)

下着の写真についても特に制限はなく、カタログ、ECサイトで使っている画像を使っています。特に問題になったり、TwitterやFacebookで削除されるといったこともありません。炎上した経験もなく、反応としては女性からの「かわいい」「ほしい」といった声が多いです。(宮澤氏)

効果測定

厳密なKPIは定めず、担当者が楽しめる環境をつくる

―ソーシャルメディア運用の効果測定としてどのような数値を見ていますか。

運用管理ツールとして使っている「つぶやきデスク」の効果測定の機能を使って、Twitterでは、「リツイート数」「ツイートを見た可能性のあるユーザー数」「リンクのクリック数」を評価しています。Facebookでは、インサイトを使って「投稿のリーチ」と「いいね!」の数を追っています。ソーシャルメディア運用としてKPIや目標値は決めておらず、反応がよかった投稿を目標に、それ超えるような投稿をしたいと考えています。(青池氏)

あえて厳しいKPIを設定しない理由は「ソーシャルメディアを必死にやる!」という雰囲気になってしまうと、担当者が数値にとらわれすぎて疲弊していまい、投稿される情報から「楽しさ」が失われる可能性があると考えているからです。双方向でコミュニケーションがとれるツールだからこそ、投稿を見ているお客様も、担当者の変化を敏感に感じ取ります。

ECサイトやメルマガのコンテンツについての視点と、ソーシャルメディアのそれとはまったく違います。押しが強いメッセージよりも、フレンドリーで楽しめるもののほうが、EC、メルマガ、販売とは違った視点でPEACH JOHNのことを伝えられます。ソーシャルメディアに売上目標や、数値目標などを設定してしまうと、メルマガ、広告と同じになってしまって、おもしろくなくなる気がしています(安住氏)。

Facebookでは、ECサイトに誘導するFacebook広告を自社で運用していますが、こちらはクリック率などを細かくみています。クリエイティブによって反応が大きく変わるので、毎週評価しながら、決められた金額の中で最大限の効果が出せるように工夫しています。(青池氏)

―反応がよい投稿にはどのようなものがありますか。

筧美和子モデル投稿
選択式投稿

小嶋陽菜さんや筧美和子さんがモデルの写真は、反応が良いですね。筧美和子さんは、社内では知らない人もいたのですが、ソーシャルメディア上では「みーちゃんかわいい」「みーこ!」というコメントをたくさんいただきます。

他に反応がよいパターンとして、ブラの写真などを複数並べて「どれがかわいいですか?」と問いかけるパターンです。下着なのでコメントしづらいかなと思いましたが、予想以上にコメントがついて盛り上がりました。(青池氏)

―ユーザーからの反応は実際の販売とも直結するのでしょうか。

「どれがかわいいですか?」という聞き方の場合は、レースやリボンのついた下着が選ばれますが、実際に売れているのはシームレスなシンプルな下着です。実際に自分が着用するものと、かわいいと感じるものは違うみたいですね。(宮澤氏)

有名アカウントや利用実績の多さで選んだつぶやきデスク

―前述で「つぶやきデスク」を使って運用管理されているとのことでしたが、「つぶやきデスク」を採用した理由はなんでしょうか。

つぶやきデスクは2009年ごろから利用しています。ただ2009年からずっとつぶやきデスクを利用しているわけではなく、mixiに対応していなかったため他のツールに変更したことがありました。しかし、すぐにmixiに対応されたので、またつぶやきデスクに戻しました。一時的に変えたツールよりもつぶやきデスクのほうが使い勝手がよかったので。(安住氏)

運用管理ツールを検討したとき、選択肢となるツールを比較しました。つぶやきデスクは有名アカウントの利用実績が多いこと、価格が安いことが決め手となって選択しました。(宮澤氏)

―特に利用されている機能はありますか。

「予約投稿」機能はいつも使っています。Facebook、Twitter、mixiに同時投稿ができるのがいいですね。複数人での運用でも、それぞれのアカウントでログインして、PEACH JOHNというアカウントを共通して使えるのも便利です。また、リツイート数、リンクのクリック数などの効果分析もチェックしています。それから「検索フォルダ」でPEACH JOHNに関連する複数のキーワードを登録しています。PEACH JOHNに関連するツイートがあれば、リツイートしたり、お困りの人にはアクティブフォローしたりしています。ツイートを見逃すことがないので助かっています。(青池氏)

セーラームーン下着は予想外の拡散!

―2013年年末、セーラームーン下着が話題になりましたが、あれはソーシャルメディアでの拡散を狙っていたのでしょうか。

セーラームーン下着

12月11日に発売しましたが、ソーシャルメディア上で発信したのは実は1回だけです。(宮澤氏)

こちらから積極的なアプローチをしなかったにも関わらず、画像を見た方からどんどんインターネット上で拡散され話題になっていき、私たちもびっくりしました。まず、アニメ好きの男性から始まり、たくさんのフォロワーを持つ著名人もツイートして、セーラームーン世代の女性も「ほしい」「かわいい」と拡散していきました。販売数に限りがあったので、発売初日にほぼ完売になりました。(安住氏)

Facebook広告はECサイトへLINE@は実店舗へ誘導

―ソーシャルメディア経由の新規会員登録、購入などはどれくらいあるのでしょうか。

年間でみると、Twitter経由で販売につながるお客様は増えてきています。Facebookでは、ECサイトに誘導するためのFacebook広告を運用していますが、こちらも増えています。(青池氏)

ソーシャルメディア経由の流入はメルマガ、カタログ、広告と比較すると割合としてはまだまだ少ないですが、無視できない存在になっています。Facebook広告については、すべて自社で運用しているので、Facebook広告の仕組み、運用のノウハウが蓄積されてきています。今後、投資できる予算を増やしていけば、流入はもう少し増えていくと思いますし、増やしていきたいと思います。(宮澤氏)

―実店舗への誘導という観点でソーシャルメディアの効果を感じますか。

実店舗では、LINE@を活用しています。最初に6店舗で試験的に運用してみて、2013年の11月から25店舗でそれぞれのアカウントを作成しました。全店舗あわせて友だちは5万人以上(2014年1月末現在)です。LINE@はWebでの告知はほとんどしておらず、店舗での告知に留めています。それは実際に来店してくれたお客様に、店舗毎の情報を受け取ってもらうことを目的に運用しているからです。運用自体は、店舗ではなく、本社の担当者が行っています。(安住氏)

細分化するコミュニティのなかにPEACH JOHNがある

―新しいものに挑戦するとき社内的な理解はすぐに得られますか。

新しいコミュニティに参加して、そのコミュニティ自体が盛り上がらずにすぐに消えていってしまうこともありますが、そのときは残念ですが仕方ないと考えています。逆に、サービスの初期に積極的に協力して、取り組ませていただくことで、一緒にそのプラットフォームを盛り上げていくようなこともできると考えています。

気になるサービスがあると、私が電話やメールで直接連絡してお話しを伺っています。おかげさまで、スタートアップ系の企業の方々とも仲良くしていただいていて、別の新しいサービスを紹介してもらうということもよくあります。「そこに女の子がいるならば!」という感じで、女性向けの新しいコミュニティには、積極的に参加しています。(安住氏)

―今後、取り組んでいきたいことはありますか。

プラットフォームは栄枯盛衰があります。ユーザーが集まる場所、プラットフォームやアプリは分散化していますし、どんどん新しいサービスが出てきています。お客様である女性が時間を費やしている媒体があれば、ユーザー数が5万~10万人だとしても、そこにPEACH JOHNが存在していた方がいいと思っています。

デバイスの中心がスマホになってから、たとえばネイルのアプリに5万人というように、小さいコミュニティがたくさんできるようになりました。会社側のリソースの問題もありますが、細分化したコミュニティの中に入り込んでいくことは、これから重要になっていくと思っています。以前のように「これだけやっていれば安心」という巨大プラットフォームはないと考えていて、スマホ化によってお客様ごとに使用するプラットフォームやアプリが異なっていくなかで、PEACH JOHNが各所に存在し、新しいお客様にも知ってもらえるように、常に変化に対応しながら考えていかなければなりません。(安住氏)

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