マーケティング測定の再定義:2025 ANA Measurement & Analytics Conference in シカゴ参加レポート(Part 1)
2025年09月19日
ライター:黒島 正貴

2025年9月8日から10日にかけて、米国シカゴで開催された ANA Measurement & Analytics Conference に参加しました。本カンファレンスは、米国広告主協会(ANA)が主催し、マーケティング、データ、ファイナンスのリーダーが集まり、業界における「測定と責任」の未来を議論しました。3日間にわたり、参加者は経済的プレッシャー、データの断片化、そしてAIの急速な進化という時代において、マーケティングがどのようにその真の価値を証明できるかを探りました。

全体概要

テーマは 「The Future of Measurement Starts Here(測定の未来はここから始まる)」。基調講演やパネルを通じ、3つの大きな潮流が浮き彫りになりました。

1. ROI(投資収益率)証明への圧力

これまで以上にCFOや取締役会は、マーケティング投資がどのように事業成長に貢献しているか、明確なエビデンスを求めています。単なるインプレッション数やクリック数ではなく、ビジネス成果への直結が問われています。ある講演者の言葉が象徴的でした。

「CFOが知りたいのはCTRではありません。投資がどれだけ利益を押し上げているかです。」

2. 測定システムの断片化

消費者行動はスマホ、PC、コネクテッドTVなど複数デバイス、オンライン広告、SNS、オフライン施策と多様なチャネルにまたがります。しかし、いまだに「ラストクリック」モデルに依存する企業も多く、全体像を捉えられていないのが現状です。

3. AIのパラドックス

AIは高速かつ賢い最適化を可能にしますが、その性能は入力データの質に完全に依存します。信頼できないデータを使えば、不適切な判断を大規模に自動化してしまう危険があります。あるスピーカーはこう警鐘を鳴らしました。

「AIは魔法の杖ではありません。投入するデータ次第です。ゴミを入れれば、ゴミが出るだけです。」

これら3つの視点をまとめると、測定はもはや単なる「報告」ではありません。収益・利益・シェアといったビジネス成果に直結し、意思決定の基盤を築くフレームワークへと進化する必要があるのです。

本記事では、GoogleとLinkedInのセッションを中心にハイライトを紹介します。HPやBayerの事例はPart 2でご紹介します。

セッション① Google ― 測定を「投資」として再定義

登壇者:

  • Kevin Bilke(Google Head of Measurement & Data Analytics)
  • Shamsa Jafri(Hearts & Science Managing Director of Analytics)

GoogleのKevin Bilke氏は、「マーケティング測定はコストではなく投資として捉えるべきだ」と強調しました。従来のラストクリックや断片的なデータに依存する姿勢は、CFOの信頼を損ねていると指摘します。

現状の課題

  • CFOは「利益貢献の証拠」を要求
  • データはオンライン、オフライン、ブランドチャネルに分散
  • 欠損や不整合が信頼性を低下
  • その中でAI活用が進むものの、データ品質の問題が大きなリスクに

Googleの「Measurement Trifecta」

  1. マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)
    プライバシー重視の時代に、全施策の総合効果を捉える。
  2. データドリブン・アトリビューション
    ラストクリックではなく、全タッチポイントに公正に貢献度を配分。
  3. インクリメンタリティ検証
    地域テストやA/Bテストで因果効果を確認。

さらにBilke氏は「文化的変革」の重要性を強調。マーケティング部門が収益・利益・シェアといった財務指標の言語で語り、ファイナンス部門と連携を深める必要があると述べました。

「良い測定は、マーケティングをコストセンターから成長ドライバーへと引き上げる。」

セッション② LinkedIn ― マーケティングとファイナンスを結ぶ共通言語の構築

登壇者:

  • Paolo Provinciali(LinkedIn VP of Marketing – Growth, Performance, and Operations)

LinkedInのPaolo Provinciali氏は、CMOとCFOを結ぶ 共通KPIフレームワーク の必要性を強調しました。マーケターにとって意味のある指標も、CFOには響かない場合が多いのです。

課題の例

CPG業界のケースで、マーケターは「ブランド認知が+2pt改善」と喜んだが、CFOの反応はこうでした。

「それは世帯浸透率や売上にどうつながるのか?」

LinkedInのフレームワーク

  1. 認知(Awareness) — ブランドを知っているか
  2. 浸透(Penetration) — 実際に購入する世帯割合
  3. 増分売上(Incremental Sales) — 基礎需要を超えてマーケティングが生んだ追加売上

この因果関係を明示することで、CFOはマーケティングの価値を理解し、時には予算の擁護者にまでなるといいます。

Provinciali氏の枠組みは、Googleが提示したMMMやインクリメンタリティと補完関係にあり、共通するメッセージは以下です。

  • マーケティング指標はビジネス成果に翻訳すべき
  • 真の効果測定にはインクリメンタリティが不可欠
  • 測定はマーケとファイナンスの橋渡し役である

「C-suiteでインプレッションやクリックを気にする人はいません。CMOとCFOが共有できる言語を共創する必要があるのです。」


🔜 続きはPart 2へ
HPとBayerのセッション、そしてカンファレンス全体を振り返ります。

メイン会場外のホワイエでは多くのスポンサーがブースを展開

3日間のセッションで満席となったメインホール

アユダンテでは月1でニュースレターの配信を始めました

この記事を書いた人
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黒島 正貴
北米ビジネスディベロップメント(グローバル)責任者
コンサルタントとして15年以上の経験を持ち、HIS、楽天、キッコーマンなどの企業において、社内外に向けたソリューション提案やデジタルトランスフォーメーションの推進に携わってきました。2024年には日本からカナダへ拠点を移し、現在はビジネスディベロップメントとして、北米市場における事業開発やパートナーシップ構築に取り組んでいます。グローバルな視点を活かし、Ayudanteの価値を世界に広げることを目指しています
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