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2024年10月7日から10日まで、ニューヨーク・マンハッタンの中心で開催された「AWNewYork 2024」(Advertising Week)に参加する機会がありました。
東京から18時間のフライトを経て到着するとすぐに、この街のエネルギーに引き込まれました。ニューヨークの独特のスピード感は、飛行機を降りた瞬間から肌で感じ取ることができます。
今年でニューヨークでの Advertising Week は20周年を迎え、MarTech、広告、クリエイティブ、デジタルマーケティングの専門家たちが世界中から集結しました。この4日間にわたる世界最大級の広告カンファレンスは、セミナーやネットワーキング、そして最新のテクノロジーを体験できる機会が満載でした。
所要時間: 15分
AWNewYork 2024は、ペン地区に位置するマンハッタン・ホールで開催されました。会場は、エンパイア・ステート・ビルからわずか500メートル、タイムズスクエアへも徒歩15分と、非常に便利な立地にあります。
セミナー:広告を形作る7つのステージ
- テックステージ (Tech Stage) – MarTech、AdTech、データ、AIの最新動向にフォーカス。
- メディアステージ (Media Stage) – 進化するメディア戦略やメディアの未来を深掘りする。
- イノベーションステージ (Innovation Stage) – テックステージに似ているが、生成AI(GenAI)の台頭を背景に、MarTechとAIがどのようにクリエイティブなイノベーションに関わっているかに焦点を当てている。
- クリエイティブステージ (Creativity Stage) – 広告制作の成功事例やクリエイティブな発想を探る。
- グレートマインドステージ (Great Mind Stage) – 200人以上が参加する最大のステージ。主要なテック企業や広告業界のリーダーたちが広告戦略について語る。
- マーケットプレイスステージ (Marketplace Stage) – eコマースや小売業のイノベーション、特に消費者行動の変化にフォーカス。
- インサイトステージ (Insight Stage) – 広告業界の現状やトレンドについて、専門家の視点を聞くことができる。
各セミナーは約30分間で、今回、私はインフルエンサーマーケティング、eコマース、メディア、政治、ポップカルチャーなど、7つのステージで展開される30以上のセッションに参加しました。私自身、データやプライバシーに関するバックグラウンドがあるため、特にMarTech関連のセッションに強い興味を持ちました。すべてのセッションを網羅するのではなく、今後の広告業界を牽引すると感じたデータと広告に関する3つの重要なテーマに焦点を当ててご紹介します。
ターゲティング広告 – 「広告とは、適切なメッセージを、適切なタイミングで、適切なオーディエンスに届けること。」
今日のビッグデータ時代、この原則はますます重要性を増しています。なぜなら、データに基づく戦略が現代の意思決定の基盤となっているからです。広告主が効果的なオーディエンスデータベースを構築するために主に活用しているデータには、次の2種類があります。
- ファーストパーティデータ – ユーザーから直接収集されるデータで、行動情報やコンテキスト、サインイン情報を組み合わせることで、高精度かつパーソナライズされた広告配信が可能になります。
- サードパーティデータ – 北米では多くのプロバイダーがサードパーティの行動データベースを提供しており、広告主はこのデータを利用してパフォーマンスの測定やキャンペーンの最適化を行います。
大規模なデータベースを持つことで、オーディエンスを細かくセグメントし、パーソナライズされたコンテンツを配信することが可能になります。オーディエンスに響く広告の鍵は、彼らを深く理解することにあるのです。
「オーディエンスに必要なものを提供し、不要なものは取り除く。」
“Give your audience what they need, and take away what they do not need.”
— David Meltzer 氏、『シェイクスピアのマーケティング秘訣』セッションより
キャンペーンを開始したら、パフォーマンスをしっかり分析し、エンゲージメントの高いオーディエンスに焦点を当てることが重要です。
AWNewYork 2024では、専門家たちが「エンゲージメントが高いほどコンバージョン率も上がる」と強調していました。コンテンツがオーディエンスの日常にふさわしければ、エンゲージメントは自然に高まります。
一方で、オーディエンスをしっかり理解せずに広告を出すと、逆にオーディエンスをイライラさせる結果になるかもしれません。
コネクテッドTV(CTV) – ターゲティング広告の新しいトレンド
アメリカでは、80%以上の家庭が少なくとも1台のインターネット接続対応テレビデバイスを所有しています。従来のテレビチャンネルとは異なり、NetflixやDisney+などのOTTプラットフォームは、24時間いつでも視聴可能なオンデマンドコンテンツを提供しており、これによりエンターテインメントの消費方法が大きく変わりました。
今回は、VIZIO Adsが主催する朝食会に参加しました。VIZIO Adsは、OTTプラットフォームとしてデータに基づいた推奨を活用し、オーディエンスのエンゲージメントを向上させることを強調していました。VIZIOは、広告主に対して大規模なリーチ、精密なターゲティング、そしてフルファネルでのアトリビューションを可能にするプラットフォームを提供しています。
VIZIO AdsによるOTTプラットフォーム戦略の要点
- ユーザーの好みをより詳しく把握するために、視聴データを収集
- 機械学習を活用し、ユーザーの行動を分析して次に視聴する可能性のあるコンテンツを予測
- パーソナライズされたコンテンツを推奨することで、ユーザー体験(UX)とエンゲージメントを向上
- ユーザーがコンテンツやプラットフォームに共感できるようにし、継続的なサブスクリプションを促進
このカンファレンスでは、Disney+、Netflix、HBO Maxといった主要プラットフォームが、データを活用してオーディエンスの好みを予測していることも学びました。膨大なユーザーデータを活用し、ターゲティング広告がCTV(コネクテッドTV)における次の大きなトレンドになりつつあります。
例えば、Netflixが最近導入した広告付きプランは、OTTプラットフォームが単に広告を追加するだけでなく、データに基づいた高度なターゲティング広告をビジネスモデルに組み込み、進化させていることを示しています。
プライバシー重視の広告 –「オーディエンスが誰かを知る必要はない。ただ、我々は彼らが何を求めているのかを理解したい。」
広告の未来に関するディスカッションでは、Advertising WeekのディレクターであるKatie Ingram氏(左)と、GoogleのグローバルGo-to-MarketプライバシーサンドボックスのディレクターであるLisa Martinez Gilpin氏(右)が、進化する規制環境における広告主の課題とチャンスについて語りました。
GDPRやITPといったプライバシー規制が強化される中、広告業界は大きな転換点に直面しています。
シグナル損失(Signal Loss)によって、オーディエンスデータの最大70%が影響を受ける可能性があり、広告主は従来のトラッキング手法が使えなくなる未来に備えなければなりません。シグナル損失とは、サードパーティデータの減少を指し、これまで広告主がユーザーを追跡しターゲティングするために使用していたデータの入手が困難になることを意味します。
広告業界最大のプラットフォームであるGoogleは、プライバシーを重視したソリューションの最前線を走っており、個人情報保護とパーソナライズのバランスを取るために、数千回にわたるテストを行ってきました。
ファーストパーティデータやデータクリーンルームといった技術は、広告の効果を維持するために重要なツールとなっており、企業がこの変化を乗り越えるにはSaaSプロバイダーとの提携が欠かせません。
最終的に、広告の本質はオーディエンスが「誰か」を識別することではなく、彼らが「何を求めているか」を理解し、共通の興味を持つグループにターゲティングすることです。このアプローチによって、プライバシーを尊重しながらも、広告の効果を高めることが可能になります。
テックエクスペリエンスブース(Tech Experience Booths)
AWNewYork 2024は、セミナーだけにとどまりませんでした。Meta、TikTok、Netflixをはじめ、その他のテック企業がブースを通じて、急速に進化する広告の世界を反映した最先端のプロダクトを展示していました。
その中でも特に印象に残ったのがMetaのブースです。
今回訪れた多くのブースの中で、Metaのブースが際立っていたのは、「Meta AI」(英語)と「Ray-Ban Metaスマートグラス」という2つの革新的なプロダクトでした。これらは現在、日本や他のアジア地域では未発売のものでした。さらにブースでは、MetaがInstagramリールを活用してビジネスをどのように支援しているかの事例も展示され、そのプラットフォームがもたらす大きな影響が強調されていました。
Meta AI は、従来のAIアシスタント(例: GPT)を超えるもので、単に質問に答えるだけではなく、ユーザーがアップロードしたポートレートをAIの機能でクリエイティブに変換することができます。これにより、ユーザー体験に新たな創造性が加わります。
Ray-Ban Metaスマートグラス は、音声アシスタント、カメラ、ヘッドホンをスタイリッシュなRay-Banフレームに組み込んだもので、周囲とのインタラクション方法を再定義し、没入型技術の限界を広げる可能性を秘めています。
これらの革新的なプロダクトはまだアジアでは利用できませんが、AWNewYork 2024で実際に体験することで、米国がいかに技術の最前線に立っているかを改めて実感しました。このようなイベントは、アジアにいる私たちにとって、デジタルイノベーションの未来を予測し準備するための貴重なインサイトを提供してくれる場でもあります。
ネットワーキングパーティー(Networking Parties)
4日間にわたるイベントでは、最新のテクノロジーショーケースだけでなく、招待制のネットワーキングパーティーも複数開催され、私もそのいくつかに参加することができました。中でも特に印象的だったのは、Google Privacy Sandboxが主催したパーティーです。ここではメディアやテック業界のリーダーたちが集まり、プライバシー保護とターゲティング広告のバランスをどのように取るかという課題について活発な議論が交わされました。
「質の高いコンテンツをインターネットに残し、広告主にその製作費用を支払ってもらおう!」
“Keep quality content on the internet and let advertisers pay for it.”
この言葉は、イベントとパーティー全体の精神を的確に表していました。
Eladio Carrión(ラテン・トラップ&レゲトンのアメリカ人ラッパー)
AWNewYork 2024の最終日には、アメリカのラッパーEladio Carrión氏とグラミー賞受賞グループのLatin Mafiaが全参加者のためにパフォーマンスを披露し、マンハッタンの中心で行われた4日間にわたるカンファレンスを見事に締めくくりました。
まとめ
アジア以外でこれほど大規模なカンファレンスに参加したのは、今回が初めてでした。アジアでよく目にするスライドを使ったプレゼンテーションや、詳細なケーススタディを通じた業界向けのインスピレーションとは異なり、こちらのセミナーはほとんどがトークショーのような雰囲気でした。まるでアメリカの深夜トーク番組のように、コメディの代わりにテクノロジーが中心となるトークが展開される感覚です。
テクノロジーの専門家たちが、情熱を持って自分の考えをシェアしている姿にはとても感動しました。オンライン学習や生成AIが普及している現代では、リモートで学べないことはほとんどないと言われていますが、このような大規模なカンファレンスに 現地参加することで、アメリカの最新トレンドをより深く理解できました。そして、これらのトレンドがいずれアジアにも大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
初期の頃と比べ、今年のAdvertising Weekは、生成AIやデータドリブン戦略、そしてMarTechに一層強く焦点を当てていたと感じました。これらは間違いなく、広告の未来を形作る重要な要素です。
今、誰もがAIや機械学習について話していますが、信頼できるデータが基盤として存在しなければ、こうした高度な技術の構造はすぐに崩れてしまうでしょう。データの収集は、建設現場での土台作りのようなものです。しっかりとした基盤があるからこそ、エンパイア・ステート・ビルやワン・ワールド・トレード・センターのような高層ビルが建てられるのです。この比喩において、データは建設現場の基盤であり、私たちが築き上げる目に見える傑作が、AI、機械学習、そしてターゲティング広告です。
AWNewYork 2024で学んだことのひとつが、「広告とは、適切なコンテンツを、適切なタイミングで、適切なオーディエンスに届けること」というシンプルながらも強力な洞察です。これこそが、今日の広告業界のビジョンを完璧に表していると感じました。
今回の文章は少し長くなりましたが、最後までお読みいただき本当にありがとうございます。