運用型広告のプランニングで必要な2つの考え方

2021年07月29日
ライター:粂野 三佳

運用型広告をスタートする際に必ず行うプランニング。みなさんはどのように行っていますか。私の場合はクライアントの「広告配信の目的」「目標」を明らかにして、それらの目的に沿い目標を達成できるよう計画を立てていくことからはじめます。計画を立てる際は「過去の実績」「過去の類似商材の実績」「クライアントへのヒアリング」「検索ボリューム」「競合調査」などを参考に、媒体の選定、ターゲティングやキーワードの選定、ときにはシミュレーションを出すこともあります。正直に言うと、時間をかけて調査し、検討を重ねて設計したプランニングでもプラン通り、シミュレーション通りに進むことはほとんどありません。
プランニングに関してはずっと違和感を抱えていたのですが、先日、上司から教えてもらったヘンリー・ミンツバーグの論文「戦略クラフティング」*を読んで、この違和感の原因がわかってきました。このコラムではその要因も含め私なりの広告戦略の考え方についてまとめました。

戦略プランニングと戦略クラフティング

戦略を立てること戦略プランニングとよく表現されますが、意味としては「何かを成すための計画や大枠の方向性・ストーリー」だと考えてよいでしょう。先述の論文*ではこの「戦略プランニング」とは別に「戦略クラフティング」という考え方を提唱しています。
戦略クラフティングとは「形成していくプロセスと実行するプロセスとが学習を通じて融合し、その結果、独創的な戦略へとだんだんと発展していく」プロセスのことです。クラフティングと表現しているのは工芸制作のプロセスから着想を得ており、創作している様子(クラフティング)をイメージしています。
論文では「戦略は策定される場合もあれば、次第に自己形成される場合もある」と言及されます。ここで言う、策定される戦略は「プランニング」で、自己形成される戦略は「クラフティング」に当たります。

戦略プランニングと戦略クラフティングの違い

運用型広告との共通点

プランニングとクラフティングの考え方は、運用型広告との共通点が多くあることに気が付きました。
運用型広告で行っている戦略プランニング
・過去の配信実績に基づく計画
・競合調査や市場調査の結果をもとにした仮説と計画
・クライアント企業の強みや弱みの分析
・GAなどを活用した広告以外のデータに基づく仮説と計画

運用型広告で行っている戦略クラフティング
・細かなキーワード選定(拡張し過ぎそうだ、などキーワードの選定時に感覚的な思考が働く)
・広告のテスト(AをA’にしたほうが良くなりそう、この訴求が当たりそう、など感覚的な思考が働く)
・キャンペーンの停止や広告の停止タイミング(停止基準の目安を決めている場合もあるが、これ以上は配信しても獲得が見込めないだろうなど感覚的な判断をする)
・クライアント事情による制約から結果的に意図しない広告ができてしまった
・今まで訴求したことのなかったサービスの特徴を訴求する
・プライベートな時間に全く関係のないところで商品サービス訴求のアイデアが浮かぶ

箇条書きにしてみるとわかりますが、クラフティング視点のものは感覚的なものが多く、明確に言語化するのが難しい曖昧なものです。
経験による感覚的な判断をしたり、何かの制約によって意図しない広告ができてしまったり、仕事とは全く関係のない場面で訴求のアイデアがひらめいたりした経験はないでしょうか。想定していなかったことが起こり、それに臨機応変に対応していく過程がクラフティングと言えるのではないでしょうか。
「想定していないことが起こる」。これが広告のプランニングの際に私が感じている違和感の正体そのものです。運用型広告は様々な要因によって変化する・変えていくことが前提にあります。その前提に立つと、合理的な計算や分析だけで計画できるものなのだろうか、とどこかで考えている自分がいたのです。ミンツバーグ曰く、「優れた戦略策定は、論理的思考、統制と柔軟な思考、組織学習がうまく調和している」そうで、これはそのまま運用型広告に当てはまる考え方だと感じました。プランニングとクラフティングの考え方は私をプランニング時の違和感から開放してくれるものでした。

広告運用で意識しておきたいこと

想定していないことが起こるから、計画不要、計画できないとは考えていません。広告運用ではプランニングとクラフティングの両方の考え方が必要だと考えています。プランニングは過去の実績などのデータ、事実をもとに現実可能な目標値や各媒体、全体の数値感を把握するのに役立ちます。プランニングによって、目指す方向性を関係者間の共通認識とすることができます。クラフティングはプランニングで決まった方向性を踏まえつつ、目標を達成するための創意工夫や様々なアプローチ方法を試して検証していき、過去になかった新しい成功パターンを発見するのに役立ちます。新しい成功パターンの発見があると、プランニングの見直しが必要になるかもしれません。私たち広告運用者は、常にプランニングとクラフティングの間を行き来しながら、広告運用全体の良いバランスを維持する必要があります。バランスを保つために、私自身が最近、意識的に自分に問いかけることを抜き出してみるとプランニング・クラフティング2つの視点に分けられることがわかります。

<プランニング観点>
・予算配分、なんとなくやってない?
・媒体ごとの結果の違い確認した?
・新しい媒体、すぐ広げようとしてない?
・全体の売上と広告の貢献度確認した?

<クラフティング観点>
・なんでこの広告がよかったのだろう?(理由として考えられることを複数あげてみる)
・このクエリの意図は何だろう?(意図を複数あげてみる)
・どんな状況のときにこのプレースメントを見ていたのだろう?(ストーリーを考えてみる)
・自分ならどう思うだろう?(自分の感情の動きを観察してみる)

問いかける場面や状況は様々ですが、プランニング視点ではデータの確認を怠けてしまいそうなときに問いかけます。クラフティング視点では広告単位の結果の考察、新しい広告の作成時に問いかけます。どちらかに注力するだけではバランスが崩れ成果に影響が出てくる可能性があると考えています。

プランニングとクラフティングの視点

現在、運用型広告は広告の管理画面上の配信結果だけでは完結せず、ビジネス自体に寄与したかどうかも重要視される傾向が強くなっていると感じる方も多いのではないでしょうか。運用型広告には目標のCPAやCV数の達成だけではなく、それ以上の働きが期待されるようになりました。オンライン・オフラインの垣根なくユーザー視点でひとつながりのコミュニケーションが求められる流れの中、運用型広告においても一つの接点として全体を俯瞰し、接点としての役割を意識したプランニングとクラフティングが不可欠になっています。

プランニングとクラフティングに必要なこと

繰り返しになりますが、広告戦略を考えるときには「プランニング」と「クラフティング」の視点を持つことが大切です。両者の視点を持つためにそれぞれに応じた能力を養っていく必要性を感じています。
プランニングにはデータの数値や各種情報から問題点や問いを発見する力が、クラフティングには経験の積み重ねと観察力が必要になります。また、プランニングのためのデータの計測環境、クラフティングが促進される環境を整えておくことも欠かせません。
特に難しいのはクラフティングです。過去や事実など正解がないところからスタートして、創発される予兆を察知することは簡単ではありません。創発を運用型広告で例えるならば、広告クリエイティブに散りばめた要素や打ち手の実行による結果の小さな変化が全体の数値に影響を与え、プランニングの変更や商品、サービスの改善を行っていくことによって、新たな勝ちパターンや市場が生まれることと言えます。新しいパターンは簡単には発見できないものです。それでも創発への意識を忘れてしまうことはプランニングとのバランスを崩してしまうことに繋がるため、継続しなければなりません。

おわりに

私たち広告運用者は日々、目標を達成すべく奮闘しています。私が広告運用を始めた7年前から今もそのことに変わりはありません。ただ、奮闘の仕方は大きく変化しました。新人時代はcsvで大量の入稿を行うことに時間を割き、キーワードごとの入札単価を調整することに心を砕き、様々なデータから仮説を立て、細かな調整を行っては失敗する、を繰り返していました。今は細かな調整は媒体に任せ、結果のデータや広告の先にいるユーザーの行動や状況を想像して仮説を立てること、どのように伝えるかを考えることに時間を費やしています。この奮闘の仕方の変化の要因は、以前はプランニングに当たる部分を運用者自身の手で操作していたところを、機械学習の向上によって媒体に任せられる範囲が大きくなったことが影響していると考えています。アルゴリズムで論理的に計算、計画されたものは、結果が同じところに行き着く可能性があります。広告運用においては誰でも同じような結果を出すことができるようになります。さらに結果を出すためにクラフティングの重要度が高まってきているのだと思っています。
今、私はプランニング、クラフティング両方の視点を常に意識し運用者としての体力をつけていくためにできることを模索しています。
クラフティングについての考察は次回コラムでお伝えします。